出版社内容情報
ポルトガルの古都で発見された首なし死体。若い新聞記者が派遣される。ジプシーの老人、匿名の電話、夜更けの街にうずまく陰謀。読者はしだいに〈タブッキ〉の世界に導かれてゆく。
内容説明
ポルトガルの古都で発見された首なし死体。若い新聞記者が派遣される。ジプシーの老人、匿名の電話、麻薬密売に絡む警察官。やがてチャールズ・ロートンを連想させる老弁護士が登場し、「タブッキ」の世界に導かれてゆく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夏
27
現実に起こったある事件がきっかけとなって生まれた小説。ある日ポルトで、ジプシーのマノーロが首のない死体を発見する。新聞記者のフィルミーノがマノーロから死体発見の経緯を聞いて記事にし、その後も調査を続けていく。大枠で括るとこの小説は非タブッキ的で、タブッキ的だと言える小説よりも読みやすい。訳者は、注意して読むと、いたるところにタブッキ的な要素があると述べているので、タブッキを一切感じないわけではない。タブッキ的な要素も含みつつ、物語の流れはわかりやすい。タブッキ作品の中でも上位に位置する面白さだった。2024/07/21
長谷川透
18
現実と夢の交錯はなく円環を成すわけでもない。『遠い水平線』風に始まった物語であったが『ペレイラ』の系譜にある作品と言って良いだろう。ところがタブッキお得意の自分探しや自分巡りもなく、驚くほど非タブッキ的な小説で、本格派社会小説、ミステリー小説と言えるかもしれない。タブッキ的な小説を期待して読み始めた読者(僕を含む)は徹底したリアリズムで書かれる文体と一向に幻想色を帯びてこない物語に拍子抜けしてしまうかもしれないが、淡々と交わされる会話の数々はこの時代のポルトガルの政治的な、法的な瑕疵を一層浮き彫りにする。2012/11/12
風に吹かれて
17
1996年著。ポルトガルのポルト郊外の集落で老いたジプシーが首のない死体を発見。リスボンから記者フィルミーノが上司の命でポルトへ。フィルミーノが出会った弁護士は、嘘の証言を言わせようと拷問された人のためであれば報酬なしでも弁護するというチャールズ・ロートンそっくりの大金持ち。お金持ちであるだけでなく、ロートンは懐が深そうだ。たとえばルカーチのような文体を持ちたいとフィルミーノが言うとロートンは「おもしろいことをおっしゃる。どうしてまたルカーチなどを。彼が文体を持っていると思うのですか?」(p97)➡2019/11/25
rinakko
12
再読。“それは自分でも理解することのできなかった人生の一定の期間について、その意味を説明してくれる手紙。たいした説明が書いてあるわけではないが、過ぎ去った多くの歳月の意味、そのときには理解できなかった意味を理解させてくれる手紙。” “私は過去からの手紙を待っている人間の一人なのです。”2016/08/16
ぞしま
8
タブッキ作品の中では、リアリズム•社会寄りな作品であり、系譜的には供述によるとペレイラは、に属すような作品。社会的人格を獲得した後の善良な市民の苦悩や葛藤が描かれたペレイラに比して、フィルミーノという駆け出しの記者のビルドゥングスロマンであるという違いはあれど、正義、そして悪と戦う、という意でも、似た感慨を覚える。タブッキの私的空間と公的空間の射程の広さに、単純に驚かされる。白眉はやはりドン•フェルナンドの、途切れた、弁舌。2015/11/30