出版社内容情報
セーヌ川の橋の下に住まうボヘミアン、アンドレアスは、ある日思いがけなく200フランの金を恵まれる。その日から美しくも不思議な奇跡の日々が彼の人生の最後を飾ることになる。異常なまでに書けるといわれ、そして人一倍酒を愛したロートの作品を池内紀訳で贈る。表題作の他に2篇収録。
内容説明
セーヌ河畔に住まうボヘミアンにふと訪れた、美しくも不思議な奇蹟の日々。生よりもむしろ死にいろどられた大人の寓話。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
棕櫚木庵
20
三つの短篇.「聖なる酔っぱらいの伝説」: しょうもない酔っ払いの主人公,都合よすぎる話の展開.でも,確かに「heiligen Trinker」の「Legende」のように感じられ心惹かれる.何故だろう.「四月,ある愛の物語」は,その題名から想像される“ロマンチック”を元気よく蹴っ飛ばすような結末だけど,カラ元気のような・・・.一方,ロートとシュトラウスの「ラデツキー行進曲」が結びつかなかったんだけど,「皇帝の胸像」を読んで,接続点が想像でるような気がした(ロート『ラデツキー行進曲』は未読だけど).→2022/10/21
Naoko Takemoto
11
昨年、亡くなられた池内紀先生の翻訳。ヨーゼフ.ロートとその妻もアルコールに追われるような人生を送ったとの解説があった。まるで大人の童話の風情が漂う三編。池内先生が1987年にこの作品を遇えて選んで訳した意味を考えながら読んでいた。晩年、旅やエッセイに力を入れていた意味も。ドイツ文学ってロマンチックな反面、残酷でもある。2020/02/26
三柴ゆよし
11
これはもうタイトルだけで6万点くらいあげたい。セーヌの川岸に住む宿なしおじさんに、ふいと訪れるささやかな奇跡の日々。吉健しかり、BUKしかり、安吾しかり、酒飲みの書いた文章には、どこか物事を突っぱねているような、乾いた質感があると思っていたけど、ヨーゼフ・ロートの場合、ちょっとディケンズっぽい抒情が前面に出てきて、それがまたいい。表題作とか、なんか知らんけど泣きそうになっちゃったよ。どちらかといえば不幸な一生を送った作者から、こうした物語が生まれてきたこと自体が、ひとつの奇跡といえるかもしれない。2012/01/15
秋良
10
大らかで何とも言えない味わいのある短編集。さらっと読みやすいのに、しんとした余韻が残る。最後はちょっとだけ哀しい。2020/02/19
misui
9
第一次大戦後に活躍したユダヤ系の作家ヨーゼフ・ロート短篇集。収録の三篇ともに主人公の性格に浮世離れして不器用なところがあり、かつ善性を感じさせて高貴な印象がある。表題作は「わらしべ長者」風で大らかな味わい、「四月、ある愛の物語」は小さく変哲のないものへの注目が不思議と幸福感を誘い、そして「皇帝の胸像」は時代の変転から取り残された貴人の矜持と悲哀が胸に迫る。二つの大戦の間にぽっかりと開けた日溜りのような、ささやかに味わい深い一冊。2014/11/23
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