内容説明
どん底の貧乏生活を送っていた「ぼく」も、今では悠々自適な未亡人のツバメ。しかし、惨めな旧友とその妹に出会い同情と優越感を覚えた瞬間、彼の心の平安は音を立てて崩れ始める…。なぜ、ぼくは彼女を誘惑してしまったのか?素寒貧で、せつなくて、ちょっとおかしいボーヴ・ワールド。
著者等紹介
ボーヴ,エマニュエル[ボーヴ,エマニュエル][Bove,Emmanuel]
1898年に、パリの貧しい移民の家庭に生まれる。コレットに見いだされ、1924年に『ぼくのともだち』でデビュー。この作品と『La Coalition(同盟)』の二作により、1928年にはフィギエール賞を受賞した。ユーモアとペーソスを交えて描いた、都会で孤立する不器用な人物像が、多くの読者の共感を呼び、一躍人気作家となる。1945年病没。いかなるイデオロギーとも無縁なその作品は、戦後、アンガージュマン(政治・社会参加)文学の隆盛の陰に隠れ、次第に忘れられていったが、1970年代後半に輝かしい復権を果たした。今日では複数の言語に翻訳され、世界中で広く読まれている
渋谷豊[シブヤユタカ]
1968年生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。パリ第四大学文学博士。信州大学人文学部助教授。専門は、フランス現代文学、比較文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
33
年上の未亡人のヒモとして優雅に暮らすアルマンは、街でばったり貧しく孤独だった頃の友リュシアンに会う。 いまや、アルマンの目線はリュシアンを冷酷に上から見下ろしている。 そして、ある夜突然、彼はリュシアンの妹マルグリットの部屋を訪ねる。 最初は、アルマンをなんて嫌な奴だろうと思った。 「のけ者」に続いて、またしても感情移入できない主人公かと思った。 アルマンに、浦山桐郎の映画「わたしが・棄てた・女」の主人公吉岡の姿を見ていた。 2018/09/04
星落秋風五丈原
30
戦争未亡人ジャンヌと暮らしていたアルマンは、自分では何一つ仕事をしていない。いわゆるヒモである。かつて自分も同じ立場だった友人リュシアンと再会し妹マルグリットにキスしたことからジャンヌに追い出される。表紙絵がまるで子供の人形みたいで、児童書と間違う読者も多いのではないか。著者が『ぼくのともだち』の著者だと知ればそういう誤解はないはずだ。これはオトナの物語、但し不完全な。金持ち女性に飼われている男性が、貧しい友人の妹に惹かれて真実の恋を知り別れを決意する。こういう流れならば感動する要素はあるが違う。 2021/07/05
長谷川透
19
年上の戦争未亡人の元で暮らすアルマンは、ボーブの書く主人公にしては珍しいリア充な設定で驚いたが、生活が充実していようと、彼を受け止めてくれる恋人がいようと、なぜだろう、ボーブの書く倦怠感たっぷりな文章からは全く以て幸せなオーラがない。ただただ気だるい感じ。これを書くボーブさえも無気力満点に違いない。無気力なダメ人間というのは、普段はのらりくらりと生きていても、自分の人生を狂わす一点だけは見逃さないから見事である。“きみのいもうと”に恋をしてからは、嗚呼何たることか。後の祭である。さらば、愛すべきダメ男。2013/11/13
多聞
7
アルマンは戦争未亡人ジャンヌに養われて裕福な生活を送っている。ある日、昔の知り合いであるリュシアンと再会する。現在も貧しい生活が続いてるリュシアンは、かつてのアルマンの似姿でもあった。アルマンはひょんなきっかけでリュシアンの妹マルグリットに恋をし、それが災いとなりジャンヌと破局する。単なるヒモ男の転落の物語であるはずなのに、作中全体から漂う透明な空気と切迫感や寂しげな雰囲気を言葉にする術が見つからない。少なくとも私小説や無頼派、ブコウスキーなどの作品と明らかに一線を画しているのは分かる。うーむ…。2011/09/30
ざれこ
3
ダメ男、自業自得、へたれ、ひどい言葉しか浮かばないのに、なんだかすごく寂しくてかわいそうでなんだか泣きそうでした。出てくる人たち、みんな寂しい。でもなんだかいとおしい小説。2012/05/11