内容説明
タスマニアの孤島に流刑された画家グールドは、島の外科医殺害の罪で絞首刑を宣告される。残虐な獄につながれ、魚の絵を描き、処刑を待つグールド…。その衝撃の最期とは?「英連邦作家賞」受賞作品。
著者等紹介
フラナガン,リチャード[フラナガン,リチャード][Flanagan,Richard]
1961年、タスマニア生まれ。作家。『グールド魚類画帖―十二の魚をめぐる小説』で英連邦作家賞受賞、国際的に高い評価を受けた
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
88
作者がある日、見つけたのは殺人の疑いを掛けられたリチャード・グルードという男が描いた日誌だった。そこに綴られていたのは彼と周囲が見つけた魚たちと死ぬまでの囚人生活。産業革命の余波で軽犯罪者が流刑されたタスマニア。軽口を叩くが故に看守や支配者に襤褸屑になるのではないかとぶちのめされ、凄惨な刑死じみた刑罰を与えられ、監獄でも暴行、拷問に晒される中で彼が禁止されていた行為を続けていたのは、彼なりの世界への叫びでもあり、祈りでもあったのだろう。囚人達の死に様が陰惨でグロテスク。最後が本当に救い。2016/09/04
まこみや
66
19世紀前半囚人流刑地としてのタスマニアの歴史ーその残虐さと理不尽さを、現存するグールドの魚の絵を手掛かりに、奔放な想像力によって再構成した伝奇小説の体である。やがて夢と現実、外界と心象が融解して、意識も一個人から別の個へと拡散していく。果ては人間と魚の境界も渾然となって、正気も狂気も定かならぬ幻想世界に引き込んでいく。マジック・リアリズム畏るべし。粥みたいな小説ではなく少しは歯応えのあるものを、と思い手に取ったが、猛るイメージの飛翔についていくのがやっとで、面白さまで堪能するには未熟なことを自覚した。2024/03/28
らぱん
47
貧困が起こす些細な窃盗という微罪で重刑を食らって島流しにあった男の手記は、もの凄まじい。12章の物語は章ごとに魚類の絵が描かれており、それぞれの絵に象徴される人物が騙られる。度を越した残酷は非現実感を伴い、頁が進むにつれ、幻想の迷宮は立体的になり深まっていく。管理者の気分次第の罰は凄惨な拷問であり、暴力や性の描写もかなり激しいのだが、自虐的なユーモアを失わない語り口を持つ男の生命力に感動した。安っぽい人道主義を吹っ飛ばす逞しさに満ちた人間賛歌だと思う。物語の持つエネルギーに圧倒され、まだクラクラする。↓2019/08/13
ヘラジカ
32
『おくの細道』刊行記念に読了。「十二の魚をめぐる小説」という副題から、なんとなく連作小説を想像していたが全然違った。要するにオーストラリア(タスマニア)の歴史、創世神話を、シュルレアルな暴力とエロスの描写で脚色したもの。12匹の魚は、囚人にして画家のグールドが出会う癖のある悪漢たちであり、またそのときどきの自身の人格でもある。怒涛の如く押し寄せる感情と思考の奔流に打たれ続け読むのに非常に難儀したが、その不条理劇のようなストーリーラインや破壊的な筆致にはただただ唸らされた。規格外の傑作。2018/05/25
Koichiro Minematsu
27
読書メーターで知り合うことになった本。どんな本なん⤴️、が第一印象。魚の特徴を記した本と思いきや、実は、1770年、当時イギリス領有のオーストラリアに送り込まれた囚人グールドの魚の絵に、作者フラナガンが着想し物語へ。オーバーラップする孤独、汚辱にまみれる世界を表現。書くという力を感じる。2019/03/06