内容説明
ユダヤ人はなぜ、第二次大戦後も「ヒトラーの国」を選んだのか。ホロコースト後のドイツに生きた「マイノリティ」の歴史。
目次
第1章 解放(生存者たち;ユダヤ人として認識されないジレンマ)
第2章 戦後ユダヤ人社会の形成(ゲマインデの結成;ユダヤ人DP;「殺人者の国」で;死者の財産は誰のものか)
第3章 ドイツ社会のなかのユダヤ人(反ユダヤ主義と親ユダヤ主義のあいだ;アデナウアー体制とユダヤ人;補償;「詰めたスーツケースに座って」)
第4章 岐路に立つユダヤ人社会(変容するユダヤ人社会;再燃する補償問題;ホロコースト世代の終わり)
著者等紹介
武井彩佳[タケイアヤカ]
1971年名古屋市生まれ。早稲田大学卒業。早稲田大学大学院文学研究科西洋史専攻修士課程修了。アメリカ・オレゴン大学、ドイツ・ベルリン工科大学に留学、イスラエル・テルアヴィブ大学客員研究員。1999~2004年日本学術振興会特別研究員、2004年早稲田大学博士号取得。2005年より早稲田大学法学部比較法研究所助手。専攻、ドイツ現代史、ユダヤ史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
57
大学の講義を受けている様な読書。内容は重いが、筆者の語らんとする熱い想いがひたひたと伝わる。とはいえ、読み進まず行きつ戻りつ。15年程前、筆者31歳の著作。まさに気鋭の力作。「ユダヤ人」にかく迄の分類法が有ることの驚き、個人・公共併せての相続財産の処理方法、補償問題etc読みつつ、独社会が背負ってい続ける茨の十字架の痛みにおののいた。改めて私の無知蒙昧を自覚。独統一後、ユダヤ人社会は発展を続けたが、過去への決別の有り様で、社会には多々の軋轢。パレスチナ問題は周知の如く国レベルを越え、EU内でも紛争の火種。2019/01/06
korrya19
13
ホロコーストを経てなお、イスラエルでも他国でもなく、ドイツに住み続けることを選んだユダヤ人がいたということ、その理由というものを確かに考えることもなく、うっかりと見過ごしてきたと気付かされた。 ドイツ人のユダヤ人が戦後、ドイツに住むユダヤ人へと明らかに変質したこと、根強く続く補償、戦後70年近い歳月の中でのドイツ人とユダヤ人の関係が次の段階へと変質していっていることなど、様々に考えを巡らせながら読んだ。 シリーズドイツ現代史の3冊目の本著は先の2冊を結びつけてもいて分かりやすい好著。 あとがきが秀逸。2014/12/31
Toska
8
ホロコースト後もドイツでの生活を選んだユダヤ人が歩んだ歴史的な道のり。地味なテーマだが良書と思う。ナチによる迫害は勿論、戦後の援助や補償、イスラエル建国など様々な要素がドイツ・ユダヤ人のアイデンティティを変容させていった。彼らの犠牲者性を声高に訴えるのでも、逆に問題点をあげつらうのでもなく、バランスのよさを感じさせる語り口。一方で、その陰に隠された著者の学問的情熱はあとがきによく表れている。2022/12/03
6
ナチス政権下の虐殺はよく知られているが、戦後のユダヤ人に関しては文献も殆ど無く、これに行き当たり購入。今はユダヤ人はイスラエル・アメリカに殆どが居住するが、戦後(西)ドイツは少なからず定住の地である事を知る。ホロコーストという起きてしまった犯罪は、ドイツ人にとっては原罪のようである。これをどうドイツ人が背負っていくのか紆余曲折がある。ユダヤ人の定義、賠償問題、貧困層からの出発等、ホロコーストが終われば全て解決ではない。筆者は普遍性を見出したいと述べているが、確かに他の事例にも当てはまることがありそうだ。2016/08/27
る
4
イスラエルに移住せずドイツに住み続けることを選択したユダヤ人の生活が、財産の返還・補償問題とずっと隣り合わせだったことが分かる。 最後の「ヴァルザー=ブービス論争」は必読。ヴァルザーの言葉はさながら黒人を相手に「逆差別だ」と言う白人のよう。2024/01/02