内容説明
「私は経済学者として半世紀を生きてきた。本来は人間の幸せに貢献するはずの経済学が、実はマイナスの役割しか果たしてこなかったのではないかと思うに至り、がく然とした。経済学は、人間を考えるところから始めなければいけない。そう確信するようになった」―。弱者への思いから新古典派経済学に反旗を翻し、人間の幸福とは何かを追求し続けた、行動する経済学者の唯一の自伝。
目次
第1部 私の履歴書(経済学者―人間回復、考える時に;米子生まれ―教育・医療を尊ぶ風土;一家上京―父が商売失敗、苦境に;一中の自由―高度な数学、熱中する;勤労動員―作業抜け出し川遊び ほか)
第2部 人間と経済学(混迷する近代経済学の課題;拡大する新たな不均衡―短期的危機回避も限界;現実から遊離した新古典派―偏向した命題を導く;ヴェブレンとケインズ経済学;戦後経済学の発展 ほか)
著者等紹介
宇沢弘文[ウザワヒロフミ]
1928年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院に進み、特別研究生、スタンフォード大学経済学部助教授、カリフォルニア大学助教授を経て、シカゴ大学教授、東京大学経済学部教授。その後、新潟大学教授、中央大学教授、同志社大学社会的共通資本研究センター長などを歴任。2014年死去。1997年文化勲章受章。世界計量経済学会会長を務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
64
10年前に出された本の文庫化で、前半は日経新聞「私の履歴書」の集成、後半は折々に日経新聞などに寄稿した比較的平易な経済論をまとめたもの。つまり「私の履歴書」の時期と経済論をかみ合わせて読むと、著者の経済に対する姿勢がよりくっきり見える構成になっている。経済については専門用語や数式まで出てきて、「静学」と「動学」とか「限界」といった術語に慣れていないと確かに難しく感じるかもしれない。しかしより本質的なことは、著者がいわゆる新自由主義の無機質的経済学に対抗し、人間を真ん中において考えようとしたことと思う。2024/09/07
壱萬参仟縁
43
2014年初出。教育は、経済学の重要な対象である。教育は「社会的共通資本」の大事な要素である(12頁)。 資本主義とか社会主義といった抽象的な概念で考察を進めている経済学のむなしさ、限界をつくづく感じられたという(79頁)。レジームの違いだけではないのだろう。現実の経済から遊離:平等、公正といった社会的、人間的な含意をもつ概念は無視され、効率という経済的なもののみが、形式論理のわく組みの中で論じられてきた(140頁)。社会的共通資本の価値を、2017/12/12
大先生
7
再読。相変わらず第二部の経済学の話は分からない部分もありましたが、前回よりは少し理解できた気がします。経済学は本来「人間」を考えるところから始めなければならないのにケインズ経済学のあと、合理主義経済学やマネタリズムという新古典派経済学が復活。これは効率性のみを追求し、公正、平等を無視する人間疎外の経済学だから問題あり。そこで、「社会的共通資本」を組み込んだ経済学で「人間の回復」を目指したということですね。要するに経済学にヒューマニズムを取り戻そうとした人だと理解しました(間違っていたらごめんなさい)苦笑2020/08/03
Sato1219
7
大学時代、先輩が、自分は思想には共鳴できないことを前置きしつつ、「宇沢先生は、経済学がベトコンをいかに殺すか、ということに使われたことに、傷ついた人なんだ」と話してくれたことを思い出した。それから、その後、就職活動の最中、ある面接官と宇沢先生の話題に及び、「昔は立派な先生だったけど、年をとっておかしくなってしまったんだ」という軽口も聞いた。しかし、この自伝からは、先生が、変節とも退行とも無縁の、いかに一貫した人物かがわかるし、教科書のスター経済学者があちこちに出てくるのも面白い。大河ドラマにしてほしい。2017/11/08
のら
4
日経新聞に掲載された自伝と日経新聞及び日経産業新聞に掲載された論考をまとめた1冊。以前『宇沢弘文の経済学』を読みましたが、本書の内容はそれと同程度の内容も含まれ、思った以上に高度な内容でした。自伝もあることで宇沢の経済思想の基を知ることもでき、宇沢弘文の入門書の様な1冊となっています。それにしても1979年の時点で新自由主義の台頭と弊害について 言及している先見性に唸らされます。佐々木実『今を生きる思想』、宇沢弘文『社会的共通資本』と併せてどうぞ。2023/12/16
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