内容説明
戦争の跫音が近づく1930年代の満州で、道ならぬ恋に落たち男と女。対独工作のため“18世紀の貴婦人”を運んだ男は“南米のパリ”での暮らしを夢見た。そして、女は…21世紀のブエノスアイレス。人々の喜びの記憶と透明な悲哀が、官能的なチェロの音色とともに響き合う、刹那と永遠の物語。
著者等紹介
梶村啓二[カジムラケイジ]
作家。2011年、『野いばら』で第3回日経小説大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まさ
26
行きつけの酒場でチェロを弾く老人が語る身の上話。それは、有能な官僚であるチェリストと富豪の妻であるピアニストとの恋。そこには愛おしいほどの慈しみ合いがあるから、なおのこと切なくなってくる。奏でられる音色は余韻に満ち、まるで、森の中でふいに野生の鹿と遭遇し、目を合わせたまま互いに立ちすくむ―そんな甘美な時間であるかのよう。その時間がずっと続いてほしいと思ってしまうのだなぁ。2022/07/28
tom
7
エリート官僚と富豪の妻の恋物語。ところで、この官僚、チェロ弾きなのだけど、弾いているときに、弦を切ってしまった。自分では弦を張ることができないので、楽器店に行き、取り替えてもらったというエピソードが書いてある。しかしですね、この官僚は、プロとピアノ四重奏をするような腕の人、それなのに自分で弦を張ることができないなんてあり得ない。なんともいい加減な物語を書くものよ、ディテールは大事ですよと絶句しながら読了。2014/05/12
もちお
5
梶村啓二作品の中で1番読みやすかった。美しく悲しい大人の恋。奈津が夫を見捨てて幸せになるなんてことは、最初からできなかったと思う。たとえ不倫はしていても。だからそこには破滅しかなかった。2021/04/04
めにい
5
激動の時代の悲恋という意味では、『野いばら』と同じような設定。夫と真の恋人との間での葛藤を日記で知るという形態はグレアム・グリーンの『情事の終り』に似すぎていて、ちょっと嫌な気分になった。あの名作と同じような緊張感はあるけれど、第3者のあの方がいないのが彼女の気持ちに切迫感が欠けてしまうような気がする。最後のひねりはなかなか面白いが、彼女の性格を考えると違和感が出て真実にはやっぱりと思ってしまった。2014/01/19
海
4
苦しい、苦しい、けれど引けなくなってしまうほどの思い。一瞬の幸せのために、苦しみを抱えて恋をしてしまう。けれど、相手にとっては、何が幸せなんだろうか。 語ったことは現実か、過去の希望か。チェロの音が長い時間をつなぐ。2021/05/15