実用ヒートパイプ (第2版)

実用ヒートパイプ (第2版)

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  • サイズ A5判/ページ数 299p/高さ 21cm
  • 商品コード 9784526047817
  • NDC分類 501.26
  • Cコード C3053

出版社内容情報


 ヒートパイプを1個の生ある物にたとえ,その成長ぶりを眺めてみるのは興味深い。まず,1942年から1962年の20年は揺籃期あるいは幼児期で,この期はほとんど世間の目にふれず眠ってばかりいた。それが1963年に忽然と目覚め,その後10年を周期とする少年期と青年期の2期に渡り,すばらしい成長をとげた。
 まず1963年からの10年は鳴物入りで技術社会に躍り出た宇宙技術という伴走者を得て,飛躍的に成長した少年期であった。この期は伴送者の意図どおり無重力場での作動に重点がおかれ,十分な基礎研究という名の高カロリー食によってはぐくまれた。しかし,特殊な宇宙産業という羽衣を着せられぬくぬくと過保護に育てられた時期でもあった。
 ところが,1973年の石油ショックにより否応なしにこの暖い羽衣がとり去られ厳しい環境下にあった地上技術の世界に天下りさせられたのである。そして約10年間,省エネルギーを目的とする熱交換器用伝熱素子を主役として,広い工業界の舞台の上で伸び伸びと青年期らしく活躍し成長をとげてきた。
 ときあたかも1984年,わが国の筑波学園都市で日本ヒートパイプ協会が中心となって,第5回国際ヒートパイプ会議が開催された。この国際会議がまるで成人式ででもあったかのようにヒートパイプ技術は大きく飛躍し,昨今は数多くの分野で世の中に知られはじめた。そして,今後は成人として多様な技術と相まって円熟した発展をとげようとしている。中でも興味深い特殊な2例をあげてみると,その一つはヒートパイプ研究の長老の1人であるコッター博士の提案に象徴されるようなマイクロヒートパイプである。ヒートパイプは,今後一層の高集積化が進むものと予想されている電子素子と結合して,その熱拡散に一役をかうことが期待されている。そのとき,素子の小形化が進むにつれて,ヒートパイプも小さくなり遂にマイクロメータオーダの超小形ヒートパイプの登場が不可避であろうというのである。
 二つ目はその長さがキロメータオーダの長尺ヒートパイプである。現在,ヒートパイプ技術は地下資源あるいは地熱の利用技術と合体し,今までの常識を越えた大きさのヒートパイプが開発されようとしているのである。
 このように成人として応用期に入ったヒートパイプには,前2期にも増して格段の面白味が加わりつつある。すなわち,次の舞台でどんな活躍が見られるかが楽しみである。そして,この段階になると,ちょっとした着眼・工夫と実用化の努力によって,これまでは思いもかけなかったような新分野への進路が開拓されることになる。しかし,目先の新分野開拓に浮き足立つことのみでは実質的な成果は得られない。常に必要なことは,幅広い知識と十分な基礎研究による裏打ちである。このことを実証するかのように,ここ数年絶え間なくどこかでヒートパイプの基礎と応用に関する講習会が計画され,多数の参加者を集めている。実は本書の出版も日刊工業新聞社主催,日本ヒートパイプ協会協賛の講習会「ヒートパイプの技術動向と新用途開発」が大きな反響を呼んだことに端を発する。それは,わが国のヒートパイプ技術がすでに外国からの借物でなく,技術社会の中で地に足のついた内容であったことを証明するものであった。そこでこの講習内容を骨子とし,それに豊満な肉付けを行って出版の日の目を見ることになったわけである。
 1章から4章までは実用のための最小限にとどめた基礎編であり,重点はあくまでも5章以後の実用編である。しかし,新しい応用技術の公表となると,どうしても垣根となるのは各執筆者の勤務先の命の泉である特許あるいはノーハウ公開に絡む限界である。編集委員会では企業に籍をおかれた執筆者にぎりぎりの線までの公表の努力を願った次第である。
 読者諸氏におかれては,上記の背景を御理解願った上で本書に盛られた内容を十分に御利用いただき実務に役立てて下さり,そして成長途上にあるヒートパイプをより立派に成熟させていただきたい。そして,その成果を別の機会にでも御紹介願えれば本書の編集関係者として望外な喜びになる。
 本書の執筆に際し多くの公共機関,研究所,大学そして企業からの惜しみない多大の資料と情報の提供ならびに御尽力いただいた。関係各位に心よりのお礼を申しあげる。
 また,本書の出版にあたり,日刊工業新聞社大阪支社出版部の片山信二氏と辻 總一郎氏をはじめ同社関係者から多大の御協力を得た。ここに記して謝意を表わす次第である。
 昭和60年8月
日本ヒートパイプ協会
「実用ヒートパイプ」編集委員会代表
   根 岸 完 二
   大 島 耕 一
   伊 藤 謹 司


第2版刊行にあたって
 1973年に第一次オイルショック,1979年の第二次オイルショックを受け,各国で省エネルギ対策が重要課題となりヒートパイプは宇宙産業だけでなく,地上での応用に向け活発な開発研究が行われた。これらの社会現象を背景に,ヒートパイプに関連した良書が二,三刊行された。
 本書も1985年(昭和60年)に初版が刊行され,この方面の技術者,研究者にとってはバイブル的書籍となっていた。しかし,本書が初版以来,一度の改訂版も経ず,今日まできた事情として,ヒートパイプが不可欠な応用分野が少なかったために,研究開発の初期の勢いを持続できなかったことが上げられる。
 近年,パソコン,ワークステーション(W/S),サーバ等のコンピュータ機器に用いられるMPUの進展は激しく,ムーアの法則(18―24か月ごとに集積度が2倍になる)にしたがって猛スピードでその集積度が進んでいる。
 1970年頃にはMPUのクロック周波数が108kHzだったものが,1995年には150MHz,そして2000年初にはついに1GHzにも達した。周波数が大きくなるにつれて,MPUの消費電力も増大し,当初1W以下程度だったものが,アクティブな熱対策が必要とされる数Wレベルになり,現在ではパソコン用で数十W,W/Sやサーバ用では100Wを超えるものも出現している。さらに,MPUメーカによると,2005年頃にはクロック周波数は10GHzに達すると予測されている(本文より引用)。
 MPUの温度上昇を制御するのに,効率の良い(高性能,小型,軽量)冷却方法がますます重要となり,とくにノートブックPCのMPUの冷却方法として,もはやヒートパイプは欠かせない存在になっている。さらに,一部のW/S,サーバではますます高まるMPUの熱密度を拡散させるため,平板ヒートパイプ(ベーパチャンバー)式の熱拡散板(ヒートスプレッダー)が採用される等,ヒートパイプのニーズが急速に拡大している。当然本書に対しても再販が望まれており,ここで新しい進展をふまえ,全体的な見直しを図り第2版を出版することにした。
 第2版にあたり,編集委員会では初版の思想を引き継ぎ,初めてヒートパイプを学ばれる方々のために,ごく平易なところから専門的なことがらまで理解できるようにやさしく記述したことは初版と同様である。ヒートパイプに関する基本的事項(第2章から第4章)は初版をベースにして新しい知見を入れて書き替えた。また,応用分野においては,研究段階のもの,特許段階のものはできるだけ避け,実際に実用的に稼動している事例を基に編集することを心がけた。したがって,これからヒートパイプの利用を考えられている方々や,ヒートパイプ工学の基礎を見直したいと考える実務家にも大いに役立てていただけるものと思う。

 2001年6月
日本ヒートパイプ協会
「実用ヒートパイプ―第2版―」編集委員会代表
   前 沢 三 郎
   井 村 英 昭
   神 永 文 人

第2版刊行にあたって  I
序  v
第1章 ヒートパイプとは
1.1 開発から現状まで  1
1.2 ヒートパイプの構造と機能  5
 1.2.1 毛細管力  7
 1.2.2 重力、遠心力  8
 1.2.3 自励振動  9
1.3 熱輸送性能  10
1.4 熱機関としての機能  12
1.5 ヒートパイプの有効性と応用  14
第2章 ヒートパイプ及び密閉二相熱サイフォンの伝熱性能の評価
2.1 伝熱性能の評価  17
2.2 伝熱モデル  18
2.3 熱伝達率の計算  21
 2.3.1 密閉二相熱サイフォン  21
 2.3.2 ウィック式ヒートパイプ  30
2.4 最大熱輸送量  36
 2.4.1 密閉二相熱サイフォン  36
 2.4.2 ウィック式ヒートパイプ  39
第3章 ヒートパイプのシステム熱設計の仕方
3.1 熱設計とはなにか  49
3.2 節点の決め方  51
3.3 伝熱コンダクタンスの決め方  52
 3.3.1 伝導熱伝達  52
 3.3.2 対流熱伝達  55
 3.3.3 放射熱伝達  57
3.4 熱交換器の考え方  60
第4章 ヒートパイプの作り方と確かめ方
4.1 製造方法  63
 4.1.1 構成要素  63
 4.1.2 設計手順  64
 4.1.3 ヒートパイプの製造工程  69
 4.1.4 容器構造に対する考え方  78
 4.1.5 ヒートパイプ及び応用機器の標準化  78
4.2 容器材料、作動流体、ウィック材料の選定  81
 4.2.1 容器材料の選び方  81
 4.2.2 周囲条件、ウィック、作動流体との適合性  81
 4.2.3 容器の強度計算  82
 4.2.4 作動流体の選び方  83
 4.2.5 ウィック材料の選び方  85
4.3 性能試験  87
 4.3.1 性能試験の目的  87
 4.3.2 試験装置  87
 4.3.3 試験方法  89
 4.3.4 性能値の求め方  91
 4.3.5 低温及び高温ヒートパイプの性能試験  92
4.4 寿命試験  95
 4.4.1 ヒートパイプの劣化の要因  95
 4.4.2 寿命試験の方法  97
第5章 電子・電力機器への実用
5.1 電子機器への実用化  105
 5.1.1 ゲーム機への実用  105
 5.1.2 半導体テスター機器への実用  107
 5.1.3 半導体レーザへの実用例  110
 5.1.4 通信機器への実用例  112
 5.1.5 ペルチェモジュール応用の電子機器冷却  114
 5.1.6 ケンザン型蛇行細径ヒートパイプ放熱器による電子機器冷却  118
5.2 コンピュータ機器への実用化  120
 5.2.1 ノートパソコンへの実用  121
 5.2.2 サーバー等への実用  133
5.3 電力機器への実用化  139
 5.3.1 産業用電源装置  140
 5.3.2 電車電源制御装置  148
第6章 熱交換器への実用
6.1 電子機器用熱交換器への実用化  163
 6.1.1 一般密閉電子制御盤冷却用熱交換器  163
 6.1.2 屋外設置型電子筐体への実用  168
6.2 熱交換器への実用化  171
 6.2.1 廃熱回収熱交換器  171
 6.2.2 空調換気熱交換器  176
 6.2.3 蓄熱システムへの実用  178
第7章 産業機械への実用
7.1 ヒートシーラ  183
 7.1.1 包装機械と熱シール技法  183
 7.1.2 ヒートパイプによる熱シール効果の改善例  186
7.2 金型の冷却  188
 7.2.1 ヒートパイプの金型への装着  188
 7.2.2 ヒートパイプの効果  190
7.3 加熱ローラ  195
 7.3.1 加熱ローラの特性  196
 7.3.2 誘導発熱ローラー○Rの構造  196
 7.3.3 誘導発熱ローラー○Rの熱特性  197
7.4 コピー機への応用  200
 7.4.1 サーマルヘッドの冷却  200
 7.4.2 回転式ヒートパイプの利用  202
第8章 自然エネルギの利用
8.1 地熱利用ヒートパイプ融雪システム  209
8.1.1 地熱利用ヒートパイプ融雪、凍結防止システムの原理と方法  210
8.1.2 熱源の熱容量  212
8.1.3 気温条件と熱負荷  212
8.1.4 融雪能力の時間変化  213
8.1.5 実地試験  215
8.1.6 日本における実施例  217
8.1.7 アメリカでの実用例  218
8.1.8 地熱利用の展望  218
8.2 温水熱源ヒートパイプ融雪システム  219
8.2.1 原理と構造  219
8.2.2 特徴  219
8.2.3 ヒーティング熱量の算出  220
8.2.4 ヒートパイプ・ヒーティングシステムの伝熱計算  221
8.2.5 システム設計  223
8.2.6 実施例  224
8.2.7 運転実例とランニングコスト  225
8.3 温泉廃湯利用ヒートパイプ式道路融雪システム  226
8.4 ヒートパイプによる電柱支線の融雪システム  227
8.5 ヒートパイプ式地中低温貯蔵庫  230
8.5.1 APSの構造と原理  230
8.5.2 実証プラント  232
8.5.3 低温貯蔵庫実用化の課題  234
8.6 クライオ・アンカー  235
8.6.1 アラスカパイプライン  235
8.6.2 他の構造物への適用事例  235
第9章 宇宙への実用
9.1 宇宙機器熱設計とヒートパイプ  239
9.2 宇宙用ヒートパイプの使用例  246
9.3 大容量排熱システムとヒートパイプ  254
第10章 その他への実用
10.1 簡易ガスコンロへの実用  261
10.2 マドラー  264
10.3 ホットプレート(グリドル)  266
第11章 特許から見た技術
11.1 特許・実用新案から見たヒートパイプ技術動向  269
11.1.1 はじめに  269
11.1.2 特許文献の種別とヒートパイプに関する特許分類  269
11.1.3 ヒートパイプとその応用に関連する特許・実用新案出願動向  270
11.1.4 おわりに  275
11.2 ヒートパイプの用途を広げるために  275
11.2.1 ヒートパイプの用途開発の流れ  275
11.2.2 ヒートパイプの上手な利用法  276
11.2.3 ヒートパイプの将来展望  278
11.2.4 ヒートパイプ産業を支えるために  281

付録  285
索引  295

目次

ヒートパイプとは
ヒートパイプ及び密閉二相熱サイフォンの伝熱性能の評価
ヒートパイプのシステム熱設計の仕方
ヒートパイプの作り方と確かめ方
電子・電力機器への実用
熱交換器への実用
産業機械への実用
自然エネルギの利用
宇宙への実用
その他への実用
特許から見た技術

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