出版社内容情報
《内容》 更年期外来は近年更年期障害の治療のみでなく,骨粗鬆症をふくめた閉経後女性に対する長期的な健康管理にまでおよんでいる.本書では更年期障害の検査と治療,ホルモン補充療法の実際から,骨粗鬆症,心臓血管系の管理,性交痛,物忘れ,尿失禁,うつ,漢方治療,更年期外来の運営と将来まで幅広い内容について,経験の豊富な第一線の専門家が最新の知識をもとに臨床で役立つポイントを実践的に解説した.更年期外来に携わる医師にとっては必携の書である.序 わが国においてはここ数年,閉経前後の人口の急増が予想されており,更年期医学に対する関心も高まっています.更年期外来は従来から行っていた施設もありましたが,最近の特徴は,更年期障害の治療のみでなく,骨粗鬆症を含めた,閉経後女性に対する長期的な健康管理にまでおよんでいる点です. 薬物治療では,わが国では従来も現在も,更年期女性に対しては対症療法的な内容が多いのですが,ここ数年ホルモン補充療法の普及もめざましいものがあります. 10年前には婦人科の外来で骨粗鬆症を扱うことはほとんど考えられていませんでした.しかし骨量測定の進歩,予防医学的な立場からの対応が理解されるにつれ,現在では婦人科で骨粗鬆症を取り扱うことは普通になってきています. 更年期にはいろいろな症状があらわれます.わが国ではこれまでは,これらの症状に対して,どちらかといえば時間がたてば解決する問題として,真正面から取り組んではこなかったといえます.不定愁訴の原因をきちんと分析し,日常生活についても整理をし,それから環境などの改善とともに必要に応じ薬物治療を実施するのが順序といえます.ややもすると医学的所見の有無により治療を行いがちですが,更年期女性においては,器質的疾患の有無とともに,患者の周囲の環境の分析,整理もまた非常に重要といえます. 本書は更年期外来に従事する全国の第一線の先生方に,最新の知識の紹介とともに,実際の経験にもとづいたものを加筆し,臨床医にとって身近な実用書になるように編集いたしました.従来の更年期障害,骨粗鬆症のほかに,心臓血管系,性交痛,物忘れ,尿失禁,ホルモン補充療法と癌の問題,うつ,漢方治療,更年期外来の運営や将来なども含んだ幅広い内容になっています.しかし,いずれも日常の外来では身近なものばかりといえます. ここにご執筆いただいた先生方に心からお礼を申しあげるとともに,中外医学社企画部 小川孝志氏,編集部 上村裕也氏に深謝いたします. 本書がこれから更年期医療に本格的に取り組まれようとしている産婦人科医,医員,研修医,内科医の方々の臨床における手引き書,参考書としてお役に立てば,望外の幸いといえましょう. 1996年9月小山嵩夫 《目次》 目次1.更年期の考え方…〈小山嵩夫〉 1 1.更年期とは… 12.更年期と更年期医学… 23.更年期の対応について… 42.更年期外来とは…〈水沼英樹〉 7 1.人口動態からみた中高年女性の健康管理の意義… 7 2.女性のライフスタイルからみた中高年女性の健康管理の意義… 9 3.更年期外来の対象患者…10 4.心療内科とどう違うのか…11 5.更年期外来の診療内容…123.更年期指数とその解釈…〈赤松達也〉 14 1.更年期指数…14 a.Kupperman’s menopausal index…14 b.わが国の更年期指数…15 2.更年期指数の必要性…17 3.どのような更年期指数がよいのか…18 4.更年期指数の簡易化とその解釈…184.更年期障害の診断と治療〈石塚文平〉 23 1.更年期障害の定義,症状,病因…24 a.更年期の内分泌学的変化…24 b.更年期障害の定義…25 c.hot flush(hot flash)…25 2.更年期障害の診断…27 3.更年期障害の治療…28 a.薬物療法…29 b.カウンセリング・生活指導…315.骨粗鬆症の診断…〈金子 均〉 33 1.定義および診断法の変遷…33 2.どのような場合に骨量減少あるいは骨粗鬆症を疑うか…35 3.診断の手順…36 a.スクリーニング…36 b.日本骨代謝学会骨粗鬆症診断基準検討委員会による 原発性骨粗鬆症の診断基準…38 c.日本産科婦人科学会による閉経後骨量減少,退行期 骨粗鬆症の診断基準(本邦婦人における退行期骨粗 鬆症予防のための管理方式による)…44 d.WHOによる骨粗鬆症の診断基準…45 4.診断基準をいかに用いるか…466.更年期外来における検査…〈尾林 聡〉 49 1.問診…50 2.一般検査所見…51 3.肝機能検査…51 4.婦人科的診察所見…52 5.乳房検診…53 6.骨量測定…53 a.microdensitometry(MD)法…53 b.single energy X-ray absorptiometry(SXA)法…54 c.dual energy X-ray absorptiometry(DXA)法…54 d.QCT(quantitative computed tomography)法…54 7.骨代謝マーカーの測定…54 8.脂質検査…557.カウンセリングのこつ…〈堀口 文・太田博明〉 57 1.カウンセリングの定義…57 2.カウンセリングの理論…58 3.カウンセリングからみた更年期女性の特徴…59 4.カウンセリングの実際…61 5.更年期障害の鑑別診断やカウンセリングに有用な心理テスト…648.生活様式指導のポイント…〈伊藤博之〉 66 1.食生活指導のポイント…66 2.運動指導のポイント…68 3.その他の指導ポイント…719.ホルモン補充療法…73 a.薬剤について…〈牧田和也・太田博明・野澤志朗〉 73 1.エストロゲン製剤…73 a.投与方法…73 b.経口型エストロゲン剤…74 c.経皮型エストロゲン剤…75 2.黄体ホルモン製剤…76 3.エストロゲンと黄体ホルモンの合剤…76 b.投与法の実際…〈古謝将一郎〉 79 1.更年期障害の鑑別…79 2.投与法の実際…80 a.更年期症状が軽度の場合…80 b.中等度以上の更年期障害の場合…81 c.開始時期と終了時期…〈堂地 勉〉 85 1.HRTの適応疾患…85 2.自然閉経と卵摘の相違…86 3.卵摘患者におけるHRT…86 4.更年期婦人におけるHRT開始時期…88 a.閉経…88 b.更年期障害の出現…88 c.月経異常の出現…89 5.HRT投与終了時期…89 6.HRT投与と副作用…89 d.性器出血に対する対応…〈河村寿宏〉 91 1.治療開始前の準備…91 a.器質的疾患の除外…91 b.患者への説明…91 c.投与方法の選択…92 2.女性ホルモンの子宮内膜に対する作用…93 3.性器出血対策…94 a.周期投与法…94 b.持続併用投与法…96 e.癌術後のHRTのポイント…〈野崎雅裕〉 98 1.腫瘍外来と更年期外来…98 2.子宮頚癌治療後のHRT…100 3.子宮体癌治療後のHRT…100 4.卵巣癌治療後のHRT…101 5.非性器癌治療後のHRT…102 f.特に乳癌との関連について…〈土橋一慶〉 105 1.卵巣機能の退縮/廃絶と乳腺組織との関連…105 2.卵巣性ステロイドホルモン投与による乳腺組織の変化…108 3.HRTと乳癌との関連…108 g.QOLの維持,向上…〈青木孝允〉 111 1.量から質へ…111 2.QOLの評価法…112 3.HRTとQOLの向上…11310.漢方治療… 118 a.更年期における漢方療法の意義と処方の選択…〈陳 瑞東〉 118 1.更年期における漢方療法の意義…118 2.漢方は対症療法ではない…119 3.hot flushに対する漢方療法…119 4.冷えに対する漢方療法…120 5.関節のこわばり,しびれに対する漢方療法…121 6.不眠,イライラに対する漢方療法…122 7.ホルモン補充療法か,漢方か-その選択と併用について-…122 b.漢方治療のこつ-適応と運用…〈假野隆司〉 124 1.「証」の決定…124 2.更年期障害に頻用される方剤の「証」…126 3.漢方方剤の適応と運用…127 a.漢方療法とHRTの適応…127 b.随証療法…128 c.西洋医学的運用…12911.骨粗しょう症の治療 ビタミンD療法およびHRTを中心に〈太田博明・野澤志朗〉 132 1.活性型ビタミンD3製剤を中心としたビタミンD療法…132 2.エストロゲンを中心としたホルモン補充療法…137 a.HRTによる骨密度改善効果…137 b.HRTによる骨折防止効果…14012.高脂血症の管理…〈廣田憲二〉 145 1.エストロゲンと虚血性心疾患…145 2.診断…145 3.治療…147 4.エストロゲンと脂質…149 5.その他の薬物療法…15013.更年期の高血圧への対応…〈高松 潔・太田博明・堀口 文・野澤志朗〉 152 1.本邦中高年女性の血圧の現状…152 2.加齢による血圧の変化…154 3.エストロゲンの血圧に与える影響…155 4.更年期の高血圧の特徴と実態…157 5.更年期の高血圧の診断…158 a.正確な血圧の把握と評価…158 b.問診による患者背景の把握…159 6.更年期の高血圧の治療…16114.更年期の糖尿病,甲状腺疾患の考え方…〈内村 功〉 164 1.更年期における糖尿病…164 a.更年期における糖代謝…164 b.更年期の身体的,精神的変化と糖尿病…166 c.食事療法の問題点…167 d.運動療法の有用性…168 e.合併症の問題…169 2.更年期における甲状腺疾患…169 a.加齢に伴う甲状腺機能の変化…169 b.更年期における甲状腺疾患の治療…17015.性交痛への対応…〈安井敏之〉 172 1.閉経前後における性活動の変化…172 2.性交障害とホルモン…173 a.萎縮性変化…173 b.神経系に対する影響…173 c.腟への血流に対する影響…174 3.性交痛の現状…174 4.性交痛に対する対応…176 a.問診…176 b.薬物治療…17616.更年期のうつ状態への対応…〈相良洋子〉 182 1.頻度と種類…182 2.病態…183 a.エストロゲン離脱に起因しないうつ状態…183 b.エストロゲン離脱に起因するうつ状態…186 c.仮面うつ病…186 3.症状…187 4.診断…188 a.問診…188 b.質問紙法…189 c.ホルモン検査…189 d.鑑別診断…189 5.対応…192 a.基本的接し方…192 b.薬物療法…194 c.精神科へのコンサルト…19417.物忘れ・記憶障害・初期痴呆とエストロゲンについて〈大藏健義〉 196 1.記憶とエストロゲンとの関係…196 2.物忘れ・記憶障害と初期痴呆…197 3.Alzheimer病に対するERTの理論的根拠…198 4.物忘れ,記憶障害,初期痴呆に対するERT/HRTの実際…199 a.物忘れ,記憶障害,初期痴呆の診断と対象患者の選別…199 b.ERT/HRTの方法…200 c.ERTの効果と実際の症例…20118.尿失禁…〈岸本廉夫・工藤尚文〉 206 1.女性尿失禁の頻度と実態…206 2.尿失禁の診断…209 a.問診…209 b.検査…211 3.外来における治療と管理の実際…214 a.腹圧性尿失禁…214 b.切迫性尿失禁…21719.早発閉経…〈大原基弘〉 220 1.早発閉経の概略…220 2.早発閉経と骨粗鬆症…222 3.早発閉経と心血管疾患…224 4.診療における留意点…22520.向精神薬治療にあたっての注意点〈一瀬邦弘・土井永史・中村 満・中川誠秀〉 228 1.不眠を訴えてくる場合…228 a.不眠症の分類はどのようにされているか? -睡眠状態誤認の患者に注意する-…228 b.睡眠薬を使う前に-睡眠/覚醒記録表のすすめ-…229 c.睡眠薬はどのくらい癖になるか?…231 d.癖になりやすい睡眠薬は?-薬物性不眠について-…232 e.実際の処方-睡眠薬の使い方-…234 2.抑うつを訴えてくる場合…235 a.薬物療法,抗うつ薬を使用する際の原則…235 b.実際の処方…235 3.不安を訴えてくる場合…236 4.ベンゾジアゼピン系薬物と相互作用…23721.更年期外来と医療経営…〈秋山敏夫〉 238 1.検査項目…238 a.更年期障害…238 b.骨粗鬆症…240 2.治療…241 a.適応症…241 b.長期投与…242 c.診察料…24222.更年期外来-次世紀に向けて…〈多賀理吉〉 245 1.更年期医学の発展…245 2.更年期外来の果たす役割の拡大…246 3.更年期外来と社会…248索引…251