出版社内容情報
《内容》 序 病原体がほぼ出揃ったし,また治療や予防の方策も暗中模索の段階をやっと抜け出したこともあって,今ウイルス肝炎は基礎面でも臨床面でも新しいフェイズに入りつつあると思う。反省もあれば展望も(屈折も)ある今この時期を逃してしまうと,今だからこそ抱いているナイーヴな意見を率直に忌憚なく吐露して記録に留めておくチャンスは二度と訪れないかもしれない.後になって「実はあの頃…」と後悔しても始まらないのである.この小冊子に掲載する二つの座談会(臨床篇と基礎篇)を敢て行なった意義は,もしあるとすれば,そこにある. 臨床篇の座談会は本年一月東京は新橋の河豚料理店「小和田」で,基礎篇の座談会は二月に御茶ノ水の「山の上ホテル」で行なった.その臨床篇の時,参加者中の最年長である金井先生の到着が遅れ,しばし待機の時間つなぎにと,他の参加者の間で交わした会話を以下に抜述する.本書成立の経緯等をここにシカツメらしく紹介する手間が省けるからである.三代:金井先生がまだだけど,3人で始めてましょう.真弓:でも,そもそもさあ,なんで三代先生にこの企画が回って来たの?三代:やってみないかって僕に言ったのは金井先生ですけどね.真弓:でも出版社としては冒険じゃないの,先生にやらすってことは.普通の意味では先生はかなり変な人な訳だから.(笑)三代:たまには変わったのがあってもいいんじゃないかと思ったかもしれません.でも,やっぱり出版社の担当の人はかなり心配だったらしくて,「何か企画書のようなものを書いて(執筆者の人選まで済んでいるようなものをですよ)持って来い」って訳ですよ.御存知のように,僕なにごとも間際にならないとエンジンがかからない方でしょ.そんなこと言われたって何も考えてない訳ですよ.あるいは,考えたけれども忘れてる.それで,大急ぎで書いた.真弓:それがこれか(not shown here).うん,よくできてるよ.(笑)三代:大急ぎで書いたんだけども,実はそれは前からズーッと思ってたことでしてね.つまり,色々な雑誌が肝炎の特集号ってのをあちこちからしょっちゅう出してるし単行本だって出てる.つまらないですよ,マンネリでね,オザナリでね,細切れでね,優等生的でね.真弓:でもよく売れるんだってさ,肝炎の特集をすると.三代:でもね,同工異曲のようなものが何度も出て,しかもそれがそのたんびに売れるってことは,読者の側にそれだけのニーズというか欲求があって,しかもそれが満たされてないってことですよ.欲求不満.何か本当に聞きたい話があるのに今度も聞けなかった,っていうんで次に出るのをまた買っちゃう訳ですよ.だからその企画書の中にね,「僕にやらせてくれるんなら金太郎飴みたいなのを作るつもりはない」とはっきり書いた訳です.真弓:先生の場合,つもりはあっても出来ないんじゃない?(笑)三代:でもね.そこまではいいんです.幸いにしてそういう僕の意図は出版社の方にもよく理解して頂けたから.だけど,問題は人選だったんです.真弓:俺を選んだのがいけなかったの?(笑)三代:いやいや,そういう意味じゃなくてね.そうじゃなくて,僕の頭の中にまだデッサンみたいなのが固まらないうちに人を選ぶってのがね.急だったから,思い付きみたいなので決めなくちゃいけなかった.だけど,「悪名高い真弓先生」(笑)を引っ張り出そうというのは既にデッサンの中にありましたよ.企画書の中にも僕ちゃんと書いてるでしょ.普段あまり雑誌の特集号などに登場しない人を選びたいって.でね,先生が出て来るってことになると,日野先生はもう自動的に決まる訳.何故かっていうと,日野先生は防衛医大だけど攻撃型の先生でしょ.基礎の攻撃型と臨床の攻撃型でドンパチやったら面白かろうってね.(笑)真弓:それで「円満な金井先生」(笑)で保険を掛けた訳か.なるほどね.三代:いや,それだけじゃまだ保険が足りないですよ.(笑)真弓:そんなにリスクがあんの? 俺達って.(笑)三代:それでね,岡本・清水って基礎の分野で手堅くキチンと仕事をしている先生達も引っ張りだそうって訳です.岡本さんは今基礎の中では一番正確にものが言える人だと思うし,洋子さんの方は,滅多にこういう座談会,というか日本の舞台には出てこない人でもあるので,その分余計に面白いということもあってね.で,まあこんなふうに考えてデッサンがだんだん出来てきた.だけど,心配だったんです.皆さんが応じてくれるかどうかがね.おそるおそるファックスを入れましたよ,「出て下さい」って.そしたら日野先生からすぐに返事が来ましたよ.ファックスで.「相手に不足はない.真珠湾攻撃のつもりで今から武者震いを覚える」って.(笑)日野:ちゃんと用意して来ましたよ,ミサイルを.(笑)金井:どうも遅くなりました.なんだか盛り上がってるじゃない.俺の悪口言ってたんじゃないだろうな.(笑)三代:いや,単にミサイルの話で.(笑)じゃあ,四人揃ったところで…という次第で,ゆくりなくもこの座談会はノッケから「楽屋話」で始まった。後は推して知るべし,読んで貰えばわかることである. 座談の面白さはカケアイにある.そのカケアイの中で励起され,喋るつもりもなかったことをつい口に出してしまうことがままある.中にはあまりにも忌憚なく率直に喋り過ぎてやや滑稽に見える箇所もあるかもしれない.オフレコと思って当人は喋ったつもりの部分が活字になっている箇所がもしある(ない筈だが)とすれば,それは三代の責任でそうなっている.図表説明の文責も三代にある.非難・批判の向きあるを予想し,敢て責任の所在を書き添える次第である. さて,「ウイルス肝炎 至近距離からの素描」という本書のタイトルは編者の本意から出たものではない.寧ろ「妄言多謝ウイルス肝炎」なるタイトルを編者個人は密かに用意していた.ウイルス肝炎を肴にして言いたい放題(あるいは妄言暴言私語八百)を並べ立てただけに見えるかもしれない本書の為には後者の方が相応しいと思ったからである.しかし,確かに会話の部分はウイルスより人間の臭いの方が強く感じられて鼻につくかもしれないが,図表や写真とその説明を出来る丈豊富に介在させることにより,「主人公」であるウイルスのプロフィールをば可能な限り「自分の眼に見える侭の形で」描出すべく努力したつもりではある.その意味では「至近距離からの素描」というタイトルも強ち的外れではない.但し,素描と言うからには画家の存在を無視し得ない.そして,画家は彼(彼女)自身の「偏見」を通して対象に迫るのである.願わくば読者におかれては,是非ともその「偏見」の方も読み取って,読者自身の「偏見」と比較してみて頂きたい. 中外医学社に対しては心から御礼を申し上げる.就中,担当の小川孝志氏の御尽力には特に感謝したい.この企画が頓挫するチャンスは幾度もあったからである.1995年6月編者:三代俊治(座談会出席者を代表して) 《目次》 目次ウイルス肝炎の臨床〈真弓 忠 日野邦彦 金井弘一 三代俊治〉序:専門家の役割 2肝炎をめぐるトピックス:HFV, HGV 4慢性肝炎の治療:「苦い経験」 5慢性肝炎の治療:CPHは治療対象か? 6HCVの無症候性キャリアは意外に多い? 10急性肝炎をめぐって:ワクチンの問題 14インターフェロン治療:世の中の風潮 17「他人がやっているから自分も」では駄目… 21インターフェロン治療には工夫が必要 24再びワクチンの問題:治療ワクチンを含めて… 30肝炎の予防策:具体的にどうするか 33HBVのワクチンは誰にでも… 36HCVのワクチンは必要か?… 38検査結果より目の前の患者が大事 42劇症肝炎は忘れた頃にやってくる 43患者教育:例えば「如月会」… 45肝炎ウイルス感染に随伴する肝外症状:臨床医の眼力 46結論-1:ウイルス肝炎は全身の病気 49結論-2:患者さんから教わる 50C型慢性肝炎IFN治療の現況 28C型肝炎のウイルスマーカー 29至近距離からみた肝炎ウイルス〈岡本宏明 清水洋子 三代俊治〉序-1:「臨床」のことは意識せず… 52序-2:人生がウイルスと重なって見える 53過去を語る:三代の場合-1 54過去を語る:三代の場合-2 56過去を語る:清水の場合 61過去を語る:岡本の場合 66現在を語る-1:Bが好き,Cが好き 72現在を語る-2:Cと細胞との関わり 76現在を語る-3:治療のヒント 78現在を語る-4:新しい肝炎ウイルス 82将来を語る-1:残された問題 84将来を語る-2:もう「終わり」か? 86将来を語る-3:まだ「終わり」ではない 88余録:臨床には役立たない? 89付:ウイルス肝炎問答 90