出版社内容情報
《内容》 序平成7年も早や6月となり,月並みな言葉ではあるが「時の流れの早さ」に恐れ,戦いているというのが偽らざる心境である.それもこれも,7月21日から谷川久一会長(久留米大学第二内科教授)の下で開催される第31回日本肝臓学会総会での発表準備に追われてるせいでもある. さて,本書「肝炎・肝硬変・肝癌 新しい臨床のストラテジー」の出版企画を中外医学社よりいただいてからおおよそ1年,何とか約束通りに刊行することができた.これも小生を補佐し,項目立てから執筆者の決定,そして締切りに遅れる執筆者の叱咤激励の役目まで引き受けてくれた安永 満講師の献身的な援助のお陰と感謝している. 最近における肝臓病学の進歩は本当に目を見張るものがあるが,これも肝炎ウイルスの発見と分子遺伝学の進歩が上手く重なりあったためと理解される.この進歩は本来肝臓病で苦しむ患者に還元され,その苦しみから解放することに寄与されるべきである.確かに,分子遺伝学の進歩は疾病学を医師以外の研究者へ門戸を解放した.有体にいえば,ネイチャー,サイエンスといった学際的なジャーナルはもとより,ヘパトロジーといった肝臓学の専門誌で扱われる医学論文の大半はこの類の極めて基礎的な内容のものばかりで,「新しい臨床のストラテジー」にどれくらい還元できるか専門医でさえもわからない状況にある. 近代科学の黎明はイギリスにおける産業革命に基づくということはよく理解されているが,この革命はわれわれに機械的世界観を生んだ.田坂広志氏は「21世紀の血の潮流 生命論パラダイム」の中に次のような文章を書いている.「機械的世界観とは,世界はいかに複雑に見えようとも,結局は,一つの巨大な機械である,という発想にもとづく世界の見方です.そして,要素還元主義とは,何かを認識するためには,その対象を要素に分割・還元し,一つ一つの要素を詳しく調べたのち,これらを再び統合すればよい,という考え方です.(中略)要素還元主義は,対象に関する研究をさまざまな専門分野への細分化のため,学際的協力によって解決されるべき課題を解決することが困難になるという問題が生じます.」 中村雄二郎氏は,「臨床の知とは何か」(岩波新書)の中で,「医学は,近代科学の発達のなかでそこから多くの理論的,実験的,さらに技術的な成果を得てきた.けれども,医療の現場において個々の病や患者に正当にあるいは全面的に向かい合うときには,それらの成果の臨床的な統合が要請される.そこで,科学的医学と〈臨床の知〉とのアマルガムが医学の歴史の結節点で企てられる,ということである.」と述べている. これ以上くどく説明をする気はないが,要するにわれわれ臨床に身を置くものは常に「臨床の知」を考えることによって科学的医学の知を取捨選択する必要があることを指摘したい.本書の執筆にあったてもその点を十分に配慮したつもりであり,読者には副題の「新しい臨床のストラテジー」から筆者らの考えを読み取っていただきたい. 最後に,本書の刊行はいつもながら中外医学社企画部荻野邦義氏のご努力に負うところ大であり,喪心より感謝申し上げる次第である.平成7年6月雨期真っ只中の教授室にて沖田 極 《目次》 目次I 肝炎 1.肝炎の疫学 〈岡崎宗子〉 2 1.急性肝炎 2 a.A型肝炎 2 b.B型肝炎 3 c.C型肝炎 4 d.E型肝炎 5 2.慢性肝炎 5 a.B型肝炎 5 b.C型肝炎 5 c.D型肝炎 6 3.劇症肝炎 6 2.肝炎ウイルス/発生メカニズム 〈奥田道有〉 7 1.A型肝炎ウイルス(HAV) 7 2.B型肝炎ウイルス(HBV) 8 a.HBVの構造 8 b.HBVの遺伝子産物 8 c.B型肝炎の発症機序 10 3.C型肝炎ウイルス(HCV) 10 a.HCVの構造 10 b.HCVジェノタイプ 11 c.C型肝炎の発症機序 11 4.D型肝炎ウイルス(HDV) 12 5.E型肝炎ウイルス(HEV) 12 3.診断 A.急性肝炎・劇症肝炎 〈白澤宏幸〉 14 1.急性肝炎 14 a.分類 14 b.感染経路・感染様式 14 c.症状 15 d.理学的所見 15 e.血液検査 15 f.ウイルスマーカー 17 g.画像診断 18 h.組織像 18 i.予後 19 2.劇症肝炎 20 a.定義 20 b.成因 21 c.症状 22 d.理学的所見 22 e.血液検査 22 f.ウイルスマーカー 24 g.画像診断 24 h.合併症 24 i.組織像 24 B.慢性肝炎 〈日野啓輔〉 26 1.肝炎ウイルスによる慢性肝炎 26 a.慢性肝炎の組織分類 26 b.診断 28 c.自然経過と病態 30 2.自己免疫性肝炎 32 a.自己免疫性肝炎の分類 32 b.診断 32 c.HCV感染との関係について 33 4.治療 36 A.急性肝炎 〈山下智省〉 36 1.一般療法 36 2.特殊薬物療法 37 a.肝壊死抑制療法 37 b.肝再生促進療法 39 3.血液浄化法 40 4.肝移植 40 5.合併症対策 41 B.慢性肝炎 〈花田 浩〉 43 1.ウイルス性慢性肝炎の治療 43 肝臓用剤 43 2.B型慢性肝炎の治療 46 a.インターフェロン(IFN)療法 46 b.ステロイド離脱療法 49 c.IFN以外の抗ウイルス療法 50 d.免疫調節療法 50 3.C型慢性肝炎の治療 51 インターフェロン(IFN)療法 51 4.自己免疫性肝炎の治療 〈長富厚子〉 56 a.ステロイドによる治療 56 b.アザチオプリンによる治療 57 c.その他の薬剤 58 d.HCV感染が疑われる症例に対する治療 58 e.急性憎悪時の治療 58 5.肝炎の予防について 〈藤井 香〉 60 1.HAV感染の予防 60 2.HBV感染の予防 61 3.HCV感染の予防 63II 肝硬変 1.疫学と発生メカニズム 〈竹中一行〉 66 1.疫学 66 2.発生メカニズム 67 2.診断 〈坂井田功〉 71 1.定義 71 2.分類 71 3.臨床症状 73 a.一般症状 73 b.理学的所見 73 c.検査所見 74 d.画像診断 75 e.組織像 77 3.治療と予後 〈安永 満〉 79 1.治療 79 a.食事療法 79 b.薬物療法 81 2.予後 81 4.合併症の診断と治療 83 A.肝性脳症 〈増原昌明〉 83 1.診断 83 a.臨床症状 83 b.血液生化学検査 84 c.画像診断 84 2.治療 84 a.食事療法 85 b.特殊アミノ酸製剤 85 c.ラクツロース・ラクチロール 85 d.抗生物質 85 B.腹水 〈松村康博〉 87 1.腹水の発生機序 87 2.診断 88 a.理学的所見 88 b.腹部単純X線検査 88 c.腹部超音波検査 88 d.腹水試験穿刺 88 3.治療 89 a.一般治療 89 b.利尿剤 89 c.血漿蛋白製剤 89 d.腹水穿刺排液 90 e.身体圧迫療法 90 f.腹水濃縮再注入療法 90 g.腹膜・静脈シャント 91 C.肝腎症候群 〈和崎秀二〉 92 1.概念 92 2.病態生理 92 a.全身的循環因子 92 b.腎血管の収縮および拡張物質 93 3.診断 94 4.治療 95 a.誘因の除去 95 b.有効循環血漿量の確保 95 c.腎血流量の維持 95 D.門脈圧亢進症 〈田村興子〉 97 1.定義 97 2.原因 97 3.肝硬変に伴う門脈圧亢進の発生機序 98 4.症状 98 5.検査 99 6.食道胃静脈瘤 100 a.内科的治療 101 b.外科的治療 103III 肝癌 1.疫学 〈山下 仰〉 106 1.肝癌の発生頻度とB型肝炎ウイルス 106 2.肝癌の年次推移とC型肝炎ウイルス 107 2.発癌と肝炎ウイルス 〈寺井崇二〉 110 1.B型肝炎ウイルスと肝発癌 110 a.HBVの基本構造 110 b.HBV X遺伝子 110 c.HBV DNAの組み込み 111 d.組み込まれたHBV X遺伝子のトランス活性化能 111 e.HBVと癌抑制遺伝子p53 111 f.まとめ 112 2.C型肝炎ウイルスと肝発癌 112 3.診断 114 A.症状・理学的所見・血液検査 〈久保田政文〉 114 a.症状・理学的所見 114 b.血液検査 114 c.Paraneoplastic syndrome 114 d.腫瘍マーカー 114 B.画像診断 〈山崎隆弘〉 119 1.超音波検査 119 a.肝癌における超音波画像の特徴 119 b.アンジオエコー法 120 2.CT・MRI 121 a.CT 121 b.MRI 123 3.血管造影 124 a.肝癌の血管造影所見 124 b.肝癌との鑑別診断 125 4.核医学検査 127 a.コロイドシンチグラフィ 127 b.腫瘍シンチグラフィ 127 5.各種画像診断による肝腫瘤性病変の鑑別 127 C.組織像 〈松崎祐子〉 129 1.肝細胞癌 129 a.肉眼像 129 b.組織像 129 c.早期肝細胞癌とその境界病変 132 2.胆管細胞癌 132 3.混合型肝癌 133 4.胆管嚢胞腺癌 133 5.肝芽腫 133 6.その他 133 D.早期診断体系,鑑別診断(類似病変) 〈山下 仰〉 135 1.肝細胞癌発生のリスクについて 135 2.フォローアップの実際 136 3.エコーの問題点 137 4.鑑別疾患 138 4.治療 140 A.内科的治療 〈黒川典枝〉 140 1.TAE(transcatheter arterial embolization)~chemolipiodolizationを含めて 140 2.経皮的エタノール注入療法(PEIもしくはPEIT) 142 3.化学療法 145 4.免疫療法 147 5.放射線療法 147 6.温熱療法 148 B.外科的療法 〈入江和彦〉 149 1.肝癌に対する手術適応 149 2.肝切除の治療成績 151 3.肝細胞癌と肝移植 152 C.治療法の選択 〈祐徳浩紀〉 154 5.小肝細胞癌をめぐる問題点 〈沖田 極〉 157 1.小肝細胞癌をより効率よく発見するには 158 2.小肝細胞癌の診断 159索引 163
-
- 和書
- アメリカ南部の奴隷制