出版社内容情報
《内容》 序 永年にわたって本態がわからなかった非A非B型肝炎の大部分がC型肝炎ウイルスに因ることがわかり,その実態が次第に明らかにされつつあるのは周知のごとくである.1992年から慢性C型肝炎の治療にインターフェロンが保険適用となり,その適用条件として肝生検により活動性肝炎であることの証明が必要になるとともに,飛躍的に肝生検が増加した.それに伴い,線維化の程度や活動性病変の評価規準など,従来の犬山分類,あるいはヨーロッパ分類では十分に対応できない問題が生じてきた.そのため多くの病理医ならび臨床家はインターフェロン治療の適応と既存の肝炎の組織分類のギャップに直面しながら,各人それぞれの判断のもとに生検診断に当たっているのが現状である. さらに,1980年代半ば頃,微小な肝結節性病変の質的診断に,超音波誘導下の細径針による生検診断が導入され,普及するとともに,かつては経験することのなかった異型に乏しい早期の高分化型肝細胞癌,ならびにその類似病変の生検診断に多くの混乱が生じた.数年を経た今日,その混乱はいくぶん落ち着いてきたようには思えるが,現在なお少なからざる問題が残されている. 1993年7月,奈良で開催された第29回日本肝臓学会において,“バイオプシーフォーラム”として今日直面している肝生検診断を巡る諸問題について各分野のエキスパートにより,それらの問題点について正面から議論され,多くの成果を得ることができた.本著では“バイオプシーフォーラム”での演者に加え,されに数名のエキスパートに参加していただき,肝の腫瘍性ならびに非腫瘍性疾患の生検診断について述べていただいた.本著が肝生検を巡る多くの混乱の解決の一助になれば幸いである.1995年2月神代正道上村朝輝 《目次》 目次序説 1〈辻井正〉A.症例1: 先天性肝線維症 2B.症例2: 肝結核 4C.症例3: 肝悪性リンパ腫 5D.症例4: 日本住血吸虫症 6E.症例5: ヒト肝蛭症 71 肝生検の現況-アンケート調査より 9〈清澤研道 松本晶彦 田中栄司 袖山 健 鈴木俊夫〉A.調査の方法 9B.調査の結果 9C.解説 152 ウイスル性肝炎 182-1.急性肝炎 〈上村朝輝〉 18A.急性ウイルス肝炎の組織像 18B.肝炎の型別組織所見 28C.急性肝内胆汁うっ滞 282-2.慢性肝炎 〈山田剛太郎〉 30A.肝生検組織診断の歴史 30B.代表的肝組織診断基準の特徴 32C.HAIスコアの評価と問題点 35D.病因別組織像 37E.新しい肝組織診断基準 41F.生検針の選択 452-3.長期経過観察からみた生検診断 〈井上長三 矢野右人〉 48A.B型,C型慢性肝炎の背景因子と肝生検組織像の差異 48B.B型,C型慢性肝炎より肝硬変進展例の組織学的進展形態 54C.長期経過観察症例からみた肝生検診断の問題点と肝組織像の客観的把握 552-4.その他のウイルス性肝炎 〈鹿毛政義〉 59A.ウイルスと肝病理組織像 60B.肝生検組織を用いた補助的な診断方法 683 軽度活動性慢性肝炎とGOT,GPTに関する組織学的検討 72〈櫻井幹己 別当 尚 柏木 徹 小林 晏〉A.肝生検組織のよみ方 72B.総括診断 75C.記述的診断 81D.軽度活動性慢性肝炎とGOT,GPTに関する組織学的検討 814 生検組織像からみたウイルス肝炎の成立機転 86〈内田俊和〉A.ウイルス肝炎の本態 86B.壊死炎症反応の発生機序 87C.B型肝炎の発生機序 88D.壊死炎症反応に合併,あるいは続発する肝組織変化 905 腹腔鏡下肝生検の意義 95〈長谷部千登美 関谷千尋〉A.腹腔鏡下肝生検の手技 95B.腹腔鏡下肝生検の利点 98C.腹腔鏡所見による肝疾患診断 100D.腹腔鏡下肝生検の展望 1066 自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変 109〈井上恭一〉A.自己免疫性肝炎 109B.原発性胆汁性肝硬変 1167 肝腫瘍生検 1267-1.肝腫瘍における生検の意義 〈沖田 極 黒川典枝〉 126A.なぜ肝腫瘍生検が必要か? 126B.肝腫瘍生検は早期肝細胞癌の診断率を高めるか? 132C.肝腫瘍生検は小さな肝腫瘍の確定診断のためだけのものか? 133D.肝腫瘍生検は治療効果の判定の助けになるか? 1377-2.生検手技を中心に 〈真島康雄〉 141A.生検に対する基本的事項 142B.器具・装置 143C.生検における注意事項 144D.生検の禁忌 144E.生検手技の実際 145F.麻酔法と生検手技 146G.穿刺プローブの条件設定の実際 147H.穿刺時の針のずれについて 147I.生検針のずれを認識する工夫 150J.腫瘍生検の難易度 1507-3.早期高分化型肝細胞癌の組織診断〈近藤福雄 近藤洋一郎 江原正明 大藤正雄〉 152A.早期高分化型肝細胞癌の組織学的特徴および診断基準 152B.生検組織診断の実際 154C.診断困難例と腺腫様過形成の考え方について 158D.形態以外の方法を用いた悪性度評価と診断の試み 161E.切除例観察による,生検診断の再評価 1647-4.肝腫瘍生検の組織診断に対する臨床的対応〈市田隆文 宮崎 裕 松田康信 佐藤知巳田中泰樹 杉谷想一 波多野徹 上村朝輝〉 167A.腫瘍生検の組織診断は? 167B.大型再生結節の場合 168C.腺腫様過形成の場合 168D.肝細胞癌の場合 168E.肝細胞癌診断のための腫瘍生検の必要性 170F.組織学的確診を得るための検索 171G.具体的な臨床症例と治療方針 1727-5.腫瘍生検組織診断と臨床的問題点〈石黒信吾 辻 直子 寺尾壽幸建石龍平 竹中明美 春日井博志 佐々木洋〉 177A.臨床的な診断の進め方 177B.超音波映像下肝穿刺 178C.組織,細胞診断の問題点 1827-6.肝癌類似病変の生検診断 〈神代正道 中島 収〉 187A.肝硬変にみられる肝癌類似病変 187B.非硬変肝にみられる肝癌類似病変 1937-7.狙撃肝生検に伴う合併症 〈坂口正剛 鳩野長房 松本清一郎〉 203A.文献にみられる肝生検の合併症 203B.肝腫瘍生検で問題となる合併症 204C.自験例における狙撃肝生検の合併症 204索引 211