出版社内容情報
《内容》 心不全は種々の検査,診断法の発達や新しい経口強心薬の開発などに伴って,その考え方や治療が大きく変化してきている.本書はこの心不全の病態概念から治療の選択,方法までをその第一人者による対談形式によりわかり易く解説したものである.教科書的な解説書と講演との中間的な位置付けで,読み易くかつ役立つ血の通った内容の本をと企図した.理解を助け又実地に役立つような図表も豊富に盛り込んでおり,最新の心不全についてパーソナルレクチャーを受けている感覚で学ぶことの出来る書である.序 心不全は古くて新しい疾患である.とくに慢性心不全に対する理解は最近10年間で大きく変わった.1980年代に入ってから新しい経口強心薬の開発に伴って次々と新しい事実が明らかにされたからである.それまでは,心不全は種々の心疾患の終末像として,その治療も心機能の改善に目標が置かれており,心機能を評価することが我々の大きな任務と考えられたきた.確かにSWAN-GANZカテーテルをはじめ心カテーテル検査が普及し,心エコー検査も飛躍的に発展した.しかし,経口強心薬が長期予後を改善しないことが報告され,慢性心不全の病態の理解に変革を余儀なくされるようになった.それまで,多くの人達が心機能の低下と運動能力(QOL)と予後は同一線上に存在すると信じていたのであるが,呼気ガス分析法により運動耐容能(最大酸素摂取量)が定量的に測定されるようになると,運動能力と心機能障害が必ずしも相関しないことが明らかになり慢性心不全の病態が,それ程単純なものでないことがわかってきたわけである.COHN Jの指摘するように,心ポンプ機能障害と運動能力の低下(症候)と不整脈(死因)を併せもつ症候群して把えるように変ってきた.これらの従来の常識を破る新事実から,心不全は単に心力学的側面(ポンプ不全)から把えるのではなく神経体液因子の側面から理解することが重要であることがわかってきたのである.交感神経活性の亢進と生命予後の相関,心反応性に関わるβ受容体の変化,アンジオテンシンと間質の線維化(心室リモデリング)の関連など,今日の心不全に対する新しい考え方が生まれてきた. このように変りつつある心不全の病態概念から治療の選択まで,わたりやすく解説した著書があれば益する処が大きいのだが,という声があり,対談形式にして読みやすい本をつくってはどうだろうということになった.教科書的著書と講演の中間的な位置付けで,平易でかつ役立つものを目指したつもりである.対談形式にしたお蔭で,血のかよった内容になったと喜んでいる.多少とも読者のお役に立てばこれ以上の喜びはないが,読者からのご叱責も筆者の今後の糧にしたいと秘かに願っている.出版社の荻野邦義氏には大変お世話になった.感謝の意を表したい.1994年10月堀 正二木全心一 《目次》 目次§1 心不全の病態生理 A.心不全の病態 1 1.心筋不全・ポンプ不全・循環不全 2 2.心不全の定義 7 3.急性心不全・慢性心不全 12 B.代償機転とその破綻 12 1.収縮蛋白の異常 12 2.代償機転とその破綻 総論 20 3.交感神経の活性化 23 交感神経活性に対する心反応性の低下 28 4.体液内分泌系の活性化 36 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進 36 バゾプレシン 41 心房利尿ホルモン 43 血管因子 46 5.体液の貯溜と変化 48 体液貯溜の病態生理 48 腎機能障害 48 電解質バランスの失調,酸塩基平衡障害 50 まとめ 53§2 心不全の診断と検査 A.心不全の診断 55 1.病歴の取り方 55 2.身体所見 59 3.重症度分類 62 4.鑑別診断 69 5.胸部X線写真 71 6.心エコー,ドプラー検査 75 7.SWAN-GANZカテーテル検査 80 8.心機能評価 84 B.心不全患者の運動耐容能とquality of life 91 1.quality of life 91 2.運動負荷試験 92 3.end pointとしての呼吸困難と下肢疲労 96 4.呼吸困難感 102 C.心不全患者の予後規定因子 104 まとめ 109§3 心不全の治療 A.急性心不全の治療方針 111 1.心不全急性憎悪の臨床症状 112 入院のタイミング 112 2.心不全の憎悪因子,医原性憎悪因子 114 3.重症心不全の治療 121 呼吸管理 124 4.心原性ショックの治療 127 補助循環 131 B.慢性心不全の治療方針 133 1.利尿薬 134 低K血症 142 低Na性難治性心不全とECUM(exteracorporeal ultrafiltration method) 142 2.ジギタリス 144 ジギタリスの急速飽和と中毒 150 3.血管拡張薬 152 4.経口強心薬 161 5.β遮断薬 163 6.運動制限と運動療法 168 入院安静・安静の目安・運動療法 168 7.心移植 169 まとめ 172§4 基礎心疾患別の病態の相違と治療法 1.虚血性心疾患 173 急性心筋梗塞 174 慢性虚血性心疾患 178 2.心筋症 186 拡張型心筋症 186 肥大型心筋症 190 3.高血圧性心疾患 193 4.僧帽弁膜症 195 5.大動脈弁膜症 199 6.先天性心疾患 202 7.肺性心 205 まとめ 208索引 209