出版社内容情報
《内容》 本書は心臓病,特に虚血性心疾患の運動療法を啓蒙する目的で作られたものである.運動療法を理解する上で必要な運動生理学や運動負荷試験に関する基礎知識,運動療法の効果の機序,欧米における心臓リハビ リテーションの現状に加えて,監視型運動療法・非監視型運動療法・スポーツ運動療法など我が国で行われている代表的な運動療法のシステムにつき,それぞれの分野の第1人者にその施設における運動療法の現状と実際の方法を書いていただいた.運動療法を行う施設の医師・看護婦・コメディカルの方々のわかり易く実践的な手びき書である.序 戦後50年,我が国の経済的な発展に伴い,医療の分野にも大きな変化がみられる.それは,医療でありば何でもよいという量の時代からより質の高い医療が求められる時代への変遷であり,また「キュア」から「ケア」へ,すなわち治療一辺倒の医療から看護やリハビリテーション,さらには予防医学への取り組みが行われはじめたことにある. これまで我が国でリハビリテーションといえば,脳卒中の機能回復訓練のことを指していた.これはかつて我が国で脳血管障害が死因の第1位を占めていたことに関係している.その後日本人の寿命の延長と食生活の欧米化に伴い,虚血性心疾患は確実に増加しつつあり,今や狭心症,心筋梗塞は極めてありふれた病気になっている.リハビリテーションの目的が,「障害者の残存能力を高め,可能な限り高度な身体精神機能を回復し,より質の高い家庭生活や社会生活に復帰すること」にあるとすれば,心臓病,とくに突然発症する心筋梗塞においてもリハビリテーションがあって然るべきである. 心臓リハビリテーションの内容は虚血性心疾患に関する患者教育,運動療法,再発予防のための生活指導,職業相談と復職指導,精神・心理相談など多岐にわたるが,その中心はやはり運動療法である.心臓病における運動療法の有用性はすでに確立されており,運動能力を高めて家庭や社会における活動範囲を広げ,Quality of Life(生活の質)を高めるのみならず,高血圧・糖尿病・高脂血症なとの冠危険因子を是正することによって心筋梗塞の再発を予防することが明らかになっている. 欧米に遅れること20年,我が国でも心臓リハビリテーションの考え方が普及し,各施設で運動療法が試みられはじめているが,その中にあって最近の心筋梗塞患者における運動療法の健康保険適用は,今後の心臓リハビリテーションの普及に強いインパクトを有しており,今後さらに多くの施設で運動療法に対する積極的な取り組みが行われていくことが予想されている.その意味で本書の発刊は時宜を得たものではないかと考えている. 本書は心臓病,特に虚血性心疾患の運動療法を啓蒙する目的で作られたものである.運動療法を理解する上で必要な運動生理学や運動負荷試験に関する基礎知識,運動療法の効果の機序,欧米における心臓リハビリテーションの現状に加えて,監視型運動療法・非監視型運動療法・スポーツ運動療法など我が国で行われている代表的な運動療法のシステムにつき,それぞれの分野の第一人者にその施設における運動療法の現状を書いていただいた.これから運動療法を始めようとする施設の医師・看護婦・コメディカルの方々に参考になれば幸いである. 最後に本書の出版にあたり,御協力頂いた中外医学社編集部の皆様に深謝します.1994年8月吉日編者 斎藤宗靖神原啓文 《目次》 目次§1.運動療法における基礎知識 〈田中宏暁〉 1 1.運動の必要性 1 2.運動生理の基礎 3 a.骨格筋の生理特性 3 1)筋収縮のメカニズム 3 2)筋収縮のエネルギー 3 3)調節因子としての乳酸 6 4)筋線維タイプ 8 5)骨格筋の生理特性からの運動の分類 10 b.運動時の呼吸,循環器応答 16 1)心拍出量 17 2)動脈血酸素含量 21 3)静脈酸素含量 25 c.運動時のホルモン応答 28 3.運動処方 29 a.運動能の判定 29 1)最大酸素摂取量 29 2)最大下運動時の血中乳酸濃度を指標とする方法 29 3)換気パラメーターを利用する方法 30 4)その他の方法 31 b.運動強度の決定法 31§2.心疾患における運動療法効果とその機序 〈斎藤宗靖〉 37 1.健常者における運動療法の効果とその機序 38 a.運動療法の効果 38 b.最大酸素摂取量増加の機序 末梢性機序 41 c.最大酸素摂取量増加における中枢性の機序 43 d.トレーニング効果における自律神経の関与 44 2.冠動脈疾患者における運動療法効果とその機序 47 a.心筋虚血のない冠動脈疾患患者におけるトレーニング効果 47 b.心機能の改善と中枢効果 48 c.冠動脈疾患患者における側副血行の改善 48 d.狭心症患者におけるトレーニング効果 50 3.運動療法効果とその機序に関するまとめ 52 4.運動療法と冠動脈疾患の二次予防 53§3.心肺運動負荷試験 〈吉岡公夫〉 61 1.心肺運動負荷試験の意義 61 2.心肺運動負荷試験の目的 62 3.心肺運動負荷試験の適応と禁忌 63 4.心肺運動負荷試験の実施 64 a.心肺運動負荷試験に必要な機器 64 b.運動負荷法 67 c.運動時呼気ガス分析とその解釈 69 1)運動生理 69 2)心肺運動負荷試験で得られる指標 69 5.心肺運動負荷試験の評価における注意点 79 6.観血的心肺運動負荷試験 81§4.運動療法の実際A 外来通院型の監視型運動療法 〈濱本 紘〉 87 1.医療制度面からみた心臓リハビリテーション 88 2.回復期の監視型運動療法 89 a.運動療法の開始時期 89 b.インフォームドコンセント 90 c.運動療法の適応と禁忌 90 d.監視型心臓リハビリテーションに必要なスタッフ 90 e.回復期運動療法プログラム 93 f.運動処方 97 g.運動処方の実際 89 h.簡易運動処方 102 1)KARVONEN式による処方 102 2)BORGを指標を用いる処方 102 i.運動療法効果の評価と再処方 103 j.薬剤投与下の運動療法 105 k.日常生活指導 105 3.狭心症患者の運動療法 107 a.運動処方の作成 107 b.狭心症患者における運動療法の効果 110 4.患者教育 111 a.医師による教育,指導 112 b.看護婦による指導 112 c.栄養士による指導 113 d.日常生活における運動の指導 114 5.監視型運動療法の問題点 115 a.医療制度面の問題 115 b.患者教育面の充実 115 c.運動療法施設のネットワークづくり 116B 非監視型運動療法 〈大村延博,仲田郁子〉 120 1.対象の選択 120 2.運動処方決定のための運動負荷試験 124 3.非監視型運動療法の運動処方 127 a.運動の種類 127 b.運動強度 128 1)通常の運動負荷試験に基づく運動処方 129 2)心肺運動負荷試験に基づく運動処方 130 3)自覚的運動強度による運動処方 131 c.運動時間 132 d.運動の頻度 133 e.運動プログラム進行の仕方 133 1)運動初期 133 2)運動増進期 133 3)維持期 134 4.非監視型運動療法の指導 134 5.非監視型運動療法の効果 135 a.運動能力の推移 137 b.運動処方強度の増加の試み 138 c.健常者との比較 139 6.トレーニング効果の阻害因子 140 a.高齢者および女性 140 b.心筋虚血および冠動脈病変枝数 142 c.その他の阻害因子 143 7.運動療法とquality of life(QOL) 144 8.冠動脈バイパス術後患者に関する検討 147 a.心筋梗塞患者との比較 147 b.開心術の影響 147C スポーツ運動療法 〈神原啓文・野原隆司〉 151 1.入院期間の短縮とリハビリテーションの開始 151 2.心筋梗塞急性期および回復前期プログラム 153 3.運動負荷試験 153 4.回復後期リハビリテーション 158 5.慢性期リハビリテーション 159 6.慢性期リハビリテーションプログラムの実際 160 7.リハビリテーションに対するコンプライアンス 163 8.リビリテーションの効果 164 9.リハビリテーション施行上の注意点および合併症 168§5.欧米における心臓リハビリテーションの現状 〈斎藤宗靖〉 173 1.欧米・西独における心臓リハビリテーションの現状 174 a.心臓医主導型の心臓リハビリテーション 174 b.体育学部主導型の運動療法 179 c.YMCAによる心臓リハビルリーション活動 181 d.プライベートな心臓リハビリテーション施設 182 e.西ドイツにおける心臓リハビリテーション 185 2.欧米における心臓リハビリテーションとその社会的背景 187索引 191