出版社内容情報
《内容》 肺癌の存在診断,質的診断のためには欠かせない最重要の検査法となっているCT診断の実際について,鮮明な写真を豊富に示しながら解説した書である.肺,縦隔の正常CT解剖,原発巣の局在と性状診断,肺外への進展度診断などについて,読影のために必要な実践的知識を明快にまとめた.胸部CT画像所見の読み方を適宜X線像など他の画像とも対比しながら徹底的に解説しており,これから胸部CTを学ぶ者はもとより呼吸器科,放射線科の専門医にも必携の書である.序 我が国における死因の第一位である悪性新生物を部位別にみると,一位の胃癌による死亡は徐々に低下傾向にあり,逆に肺癌による死亡数は男女とも急な勢いで増加している.平成3('91)年度の統計では肺癌による死亡数は,男で27,968人,女では10,231人となっており,昭和25('50)年と比べると男は約35倍,女は約31倍となっている.そして平成5年度上半期の統計では,男では肺癌による死亡数は胃癌による死亡数をついに上回っている.肺癌の正確な診断とそこから導かれる最適な治療法の選択は,ますます重要となっている. 肺癌の診断法においてX線診断は主要なものであり,実際,日常診断で発見される肺癌の多くは胸部単純像で発見されている.従来は,単純像で発見された後は,通常の断層像,血管造影や気管支造影などの検査法によって診断し治療方針の決定を行ってきた.しかし,CTが臨床へ導入されて以来,他領域の疾患の診断体系が変わったように,肺癌をはじめとする胸部疾患の診断法にも変遷がみられている.CT装置の改良によって呼吸停止下に短時間でのスキャンが可能となるにつれて,単純像の次に行われるべき検査法として胸部CTが位置づけられるようになった.これは,CTの優れた密度分解能や水平断層像という特徴から,従来よりも多くの付加情報を得ることが可能で,癌の進展範囲をかなり非侵襲的に,しかも比較的容易に診断することができるようになったためである.現在,胸部CTは,肺癌の診断や適切な治療方針の決定において必須な検査法といっても過言ではない. 本書では,現在の肺癌診断における胸部CT検査の役割について,臨床的な観点から記述することを目指した.そのため,肺癌の病理分類やCT検査法に関する記述については必要最小限にとどめ,肺癌の肺内進展や肺外進展に関してCT所見別に症例を用いて説明した.また,肺区域解剖学的分析のために,肺気管支血管の解剖についても記載した.肺癌診断に必要な項目をすべて網羅しているわけではない点はご容赦いただきたいが,本書が実際の診療に少しでもお役に立つことができれば幸いです. 最後に,筆者のような浅学未熟の徒が本書の原稿をまとめることが出来たのは,札幌医科大学医学部内科学第三講座教授阿部庄作先生ならびに前教授鈴木明先生(現結核予防会静岡県支部)に御指導をたまわったところが大きい.ここに改めて深謝いたします.症例を収集するにあたっては同教室の諸先生や研究補助員の方々にご尽力いただき,図原稿の準備では札幌医科大学医学部附属病院中央放射線部および中央写真室の方々にご協力いただいた.謝意を表わします.また,執筆の機会を与えて下さった中外医学社の小川孝志氏に感謝いたします.1995年3月著者 《目次》 目次1章 肺癌の病理分類,進展様式と胸部CTの役割 1 1.肺癌の病理分類と進展様式 1 a.扁平上皮癌 1 b.腺癌 2 c.小細胞癌 3 d.大細胞癌 4 2.胸部CTの役割 4 3.CT撮影法(検査手技) 5 a.装置の種類 6 b.スキャン方法 6 c.再構成関数 7 d.ウインドウセッティング 8 e.造影剤の投与 9 f.患者体位,呼吸停止 9 g.特殊な表示法 11 h.アーチファクト 132章 肺・縦隔の正常解剖 18 1.肺の解剖 18 a.右上葉 19 b.右中葉 21 c.左上葉 22 d.下葉 25 e.分葉不全 25 f.実際例 28 2.縦隔の解剖 35 a.大動脈弓上部レベル 35 b.大動脈弓レベル 35 c.大動脈肺動脈窓レベル 35 d.肺動脈レベル 37 e.心臓レベル 413章 肺癌のTNM分類 43 1.T因子 45 2.N因子 46 3.M因子 464章 肺癌の肺内進展 48 1.孤立腫瘤影,侵潤影 48 a.肺区域,動静脈との関係 48 b.腫瘤影の性状(辺縁,内部構造) 50 c.周囲構造の変化 50 2.肺門部陰影 76 3.二次変化,無気肺 85 a.二次変化 85 b.無気肺のX線学的特徴 86 c.肺葉別の無気肺のCT所見 89 4.その他の種類の陰影 95 5.転移性肺腫瘍 99 a.癌性リンパ管症 99 b.単発性・多発性肺種瘤影 102 6.鑑別を要する肺疾患 106 a.孤立腫瘤影 106 b.その他の陰影 1175章 肺癌の肺外進展(縦隔,肺門) 125 1.縦隔リンパ節転移,縦隔侵潤 125 a.縦隔リンパ節部位 125 b.縦隔リンパ節転移 131 c.縦隔侵潤 138 2.肺門リンパ節転移,肺門侵潤 144 3.鑑別を要する縦隔・肺門疾患 1526章 肺癌の肺外進展(胸膜,胸壁) 162 1.胸膜,胸壁への進展 162 2.胸膜播種 173 3.胸郭・胸壁軟部組織への転移 1777章 肺癌の治療,再発の診断におけるCTの役割 183 1.外科療法 183 2.化学療法 183 3.放射線療法 186索引 189