出版社内容情報
《内容》 気管支喘息の最新の診療の実際を,臨床経験豊かな呼吸器科医がとくに治療に重点をおいて実践的に解説した書である.喘息の病態,発作の理解,把握の仕方から検査,診断について明快に述べ,次にそれに基づく治療法とその選択,救急の際の対応,喘息死の予防法,予後,管理等について簡潔かつ具体的に解説した.最近の研究の進歩による本疾患の新しい概念と発症機序の理解が出来る.今般,新しい「国際喘息診療ガイドライン」をふまえて改訂した.改訂版の序 国際喘息ガイドラインとの整合性を求めて 本書第1版を上梓したのは1992年7月のことであるが,その前年はNIHによるExpert Panel Report「喘息の診断・治療ガイドライン」が出され,翌1992年には「喘息の診断と治療」International Concensus Report(ICR)がリリースされて,世界中が国際ガイドライン一色に染め抜かれた頃であった.それでもありがたいことに,本書は多くの読者に目を通して頂いた. 執筆者一同が現行を書き上げたのがNIHガイドラインが出る直前だったこともあり,それとの整合性がきわめて気がかりであった.特に吸入β2刺激薬のregular useとon demandの使い方の優劣や,キサンチン誘導体の急性発作における気管支拡張薬としての位置づけなどが世界的にも激しいディベートの対象とされていた頃でもあったので,その辺りが大きな問題であった.また,本邦で好んで用いられている経口抗アレルギー薬の位置づけについての世界的な動向にも興味が惹かれた. しかし,次々と作成されたこれらの喘息ガイドラインの公表以来,喘息治療に携わる医師個人間はもとより,国家間でさえ大きく相違していた抗喘息薬選択の順序も,次第に統一の方向に動き出したことは間違いない.1993年には日本アレルギー学会による日本独自の喘息治療ガイドラインが作成されたが,経口抗アレルギー薬と漢方薬の取り扱いを除けば国際ガイドラインの内容と大きな差異があるわけではない.また,ガイドラインはあくまでも参考ガイドどあって,医師に義務づけるものではない.各国のガイドラインの内容を詳細に紐解くと,本書第1版に記述された喘息治療の内容との間にも,大筋において隔たりはない. 欧米では必ずしも評価が確立しているとはいえない経口抗アレルギー薬の動向については1995年のGlobal Strategyにおいて,その喘息治療上の位置づけとしてはまだ定まらないとしながらも,初めてページを裂いて言及しており,今後,注意深いフォローが必要であろう. 本書改訂にあたり,各章の担当者が特に国際的ガイドラインとの整合性に留意しつつ再び健筆を振るったつもりである.読者諸賢の忌憚のない御批判を賜われば幸いである. 中外医学社の荻野邦義,森本俊子の両氏には,初版に続いて今回もまた,多大な御助力を賜わった.合わせて深甚の謝意を表したい.平成7年6月12日宮城征四郎序 気管支喘息に関する専門書あるいは素人向けの一般的解説書はこれまで,あまた世にでているが,実地臨床家による実戦的なガイドブックは意外に少ない. 気管支喘息は人口の3~5%に認められ,内科系,外科系のいずれかを問わず全ての医師が遭遇する極めてありふれたheterogenousな症候群である.それでいて,その疾患概念や発症の機序,アプローチの仕方,治療方法などが必ずしも定まらず,いまだに目まぐるしく変容を遂げ続けており,また専門家達の間においてさえコンセンサスが得られていないのが実情である. したがって臨床経験に乏しい研修医は言うに及ばず,一般内科臨床医にとってもその取り扱い上,戸惑いの多い症候群と言っても過言ではなかろう. 本書は,臨床経験豊かな呼吸器科医達が,日ごろ本疾患患者を取り扱う上で自ら疑問としてきた問題の数々を,ある時は文献を繙きは,ある時は患者に教えられながら解決策を見出して来た経緯をここに網羅し,日々なお喘息患者の取り扱いに苦しみ抜いている臨床家達に,いくばくかなりとも示唆を与え得ることを願って編んだガイドブックである. Barnesの“Axon reflex theory”に始まり,Reedの“Chronic Desquamating Eosinophilic Bronchitis”に落ち着きつつある最近の喘息の「気道炎症論」は,その発症機序と治療の概念に大きな地殻変動をもたらした.しかしそれで喘息のすべてが解決したわけでは決してない. これからの数年,本疾患の概念と治療法は更に大きなうねりを挙げつつ変容を遂げることが予想され,我々臨床家にとって,決して目の離せない存在となることは想像に難くない. 願わくば,読者諸賢が本書を足かがりに,喘息の本質に迫る新しい研究の流れに目を反らすことなくキャッチアップを続け,より良い患者管理に役立てて頂きたいものと思う. ご助力を賜わった,中外医学社の荻野邦義,森本俊子の両氏に深甚の謝意を表するとともに,表紙を奇抜なアイデアで装丁して下さった金沢医大の桜井 滋先生に衷心より感謝申し上げたい.平成4年6月22日宮城征四郎 《目次》 目次§1 気管支喘息の疫学〈長坂行雄〉 1.喘息の罹患率とその推移 1 2.本邦における喘息罹患率 3 3.気管支喘息の増加の原因 3 4.他の症状・疾患との関連 7§2 気管支喘息の定義と発症機序〈奥平博一〉 A.気管支喘息とは 11 1.文部省総合A研究班「気管支喘息の定義」 11 2.International consensus report on diagnosis and management of asthmaの定義 11 B.気管支喘息の病態 11 1.IgE抗体とマスト細胞を介するアレルギー 12 2.遅発型喘息反応とは 12 3.好酸球とLAR 14 4.肺好酸球症とIL-5 14 a.Asc点鼻による肺好酸球浸潤の誘導 14 b.肺好酸球浸潤におけるT細胞の役割 15 c.肺好酸球浸潤とIL-5 15 5.アトピー患者におけるIL-5産生誘発試験 15 6.IL-5産生にはprotein kinase C(PKC)活性化とCa2+イオンの流入が必要である 16 7.PBMC中のCD4+T細胞がIL-5を産生する 17 8.アトピー性気管支喘息,非アトピー性気管支喘息,健常者のPBMCによるサイトカイン産生 19 9.IL-5産生はFK506,CsA,dexamethasoneで抑制される 20 10.IL-5の遺伝子転写にはNF-ATおよびAP-1が関していると考えられる 21§3 気管支喘息の分類〈長坂行雄〉即時型反応と遅延型反応 23 A.古典的分類 24 B.特殊な気管支喘息 25 1.アスピリン喘息 25 a.アスピリン喘息の臨床像 26 b.アスピリン喘息の診断 26 c.アスピリン喘息の治療と管理 26 2.アスピリン以外の薬剤誘発喘息 27 a.β遮断薬 27 b.ACE阻害薬 27 c.タートラジン(黄色色素) 27 3.運動催起(誘発)性喘息 28 4.咳喘息 28 5.アレルギー性肉芽腫性血管炎 28 C.Turner-Warwickによる治療学的分類 29 1.激変型 30 2.早朝増悪型 30 3.不可逆型 31§4 気管支喘息の診断法〈浅井貞広〉 A.病歴 34 1.最初の発作の状況についての問診 35 2.現在までの発作についての問診事項 35 3.発作の原因,誘因についての問診 38 4.既往歴,家族歴の問診 39 B.喘息体質について 40 C.臨床検査 42 1.気管支喘息の確診のための検査 42 a.理学的所見 44 b.胸部X線検査 44 c.選択的肺胞気管支造影 44 d.肺機能 46 e.気道過敏性試験 47 f.喀痰検査 48 g.閉塞性換気障害をきたす疾患の鑑別のまとめ 50 2.気管支喘息の抗原や誘因確定のための検査 50 a.特定的なIgE抗体 50 b.その他のin vitro検査 52 c.皮膚反応 52 d.気管支吸入誘発試験 55 e.環境誘発試験 57 f.食餌除去,誘発試験 57 g.アスピリン喘息誘発試験 58 h.アルコール誘発試験 61 i.運動誘発試験 63 j.特殊な機序による喘息の診断 63 D.実地臨床のアプローチ(簡便法を含む) 64 1.発作重症度の判定 64 2.気管支喘息の系統的診断 65 E.ピークフロー測定の診断学的位置付け 70 1.肺機能障害のスクリーニングとして 70 2.PFRの可逆性 71 3.PFRの日内変動の測定 71§5 気管支喘息の治療I 喘息の薬物療法 A.喘息治療の目標 〈江頭洋祐〉75 1.どこに目標をおくか 75 2.アレルギー炎症の各レベルごとの治療目標 76 B.喘息治療薬に関する新しい動向 〈宮城征四郎〉78 1.抗喘息薬に関する新しい動向 78 2.抗喘息薬としての吸入療法 79 a.吸入療法の薬物動態とフィジックス 79 b.吸入療法の種類と応用 79 3.β2刺激薬MDI(定量噴霧)法 80 4.吸入ステロイド薬 82 5.吸入抗コリン作動薬 82 6.吸入抗アレルギー薬 82 7.キサンチン製剤 83 C.汎用される喘息薬の種々 〈江頭洋祐〉83 1.β交換神経受容体刺激薬(β刺激薬) 83 2.キサンチン誘導体 86 3.副腎ステロイド薬 90 4.抗コリン薬 92 5.抗アレルギー薬 93 D.抗喘息薬における薬剤干渉および薬剤耐性について 94 1.薬剤干渉 95 テオフィリン 95 2.薬剤耐性 97 E.喘息における漢方薬の位置づけ 99 1.漢方薬の役割 99 2.喘息治療に使われる漢方薬 99 3.ステロイドと漢方 102 4.漢方薬の今後の展望 102 F.喘息治療における吸入療法の位置付け 〈中島明雄〉102 1.吸入療法の長所と短所 103 2.吸入エアゾルの物理的特徴 103 3.吸入薬剤の種類と適応 104 4.吸入器具の種類と適応 104 5.使用薬剤の種類と使用量,回数 107 a.救急治療 107 b.長期管理 108 6.吸入補助器具(スペーサー) 109 7.吸入方法と指導 109II.急性喘息発作の治療 〈宮城征四郎〉111 A.発作時の家庭における自己管理および指示 111 B.急性発作中の一般的療法と薬剤の選択および投与方法 112 1.酸素投与 112 2.輸液療法 115 3.喘息発作中の薬剤の選択 116 a.吸入β2刺激薬 116 b.エピネフリン皮下注またはその他のβ2刺激吸入注/筋注 116 c.テオフィリン 116 d.ステロイド薬 117 e.その他の薬剤 117 C.救急室受診患者の治療の手順 117 1.軽症発作(小発作) 117 2.中等症または改善しない小発作(中発作) 119 3.高度症状(大発作)および中等度症状(中発作)の持続 119 4.重篤喘息症状(重篤発作)/緊急事態 121 D.急性喘息発作の入院条件 122 E.ICU入室条件 122 F.救急室からの帰宅条件 122 G.入院患者の退院条件 123III.慢性喘息患者の管理 124 A.治療学的管理 124 1.誘因の除去 〈奥平博一〉124 a.運動 124 b.入浴 124 c.過食 124 d.飲酒 124 e.喫煙 124 f.気道感染 125 g.カゼ薬 125 h.大気汚染 125 i.気象条件 125 j.生理 125 k.ダニアレルゲンの回避 125 2.喘息重症度と薬物療法の選択 薬物選択順位の世界的動向 〈宮城征四郎〉127 a.抗喘息薬の最近のトピックス 128 b.喘息重症度と薬物療法の選択 132 3.免疫学的治療法(減感作療法) 〈奥平博一〉136 a.減感作療法の歴史 137 b.減感作療法の有効性 137 c.減感作療法の適応 137 d.減感作療法の実際 138 e.減感作療法の作用機序 139 f.減感作療法の今後 139 4.変調療法の実際 140 a.ヒスタミン加γ-グロブリン療法(ヒスタグロビン) 140 b.ノイロトロピン療法 141 c.金療法 141 5.慢性喘息の心身療法 〈江頭洋祐〉142 a.心理社会的因子 142 b.生活指導の実際 143 c.成人喘息に対して 144 d.心身医学的治療の段階的手順 145 B.日常生活上の管理 146 1.喘息日誌は果たして有効か 〈中島明雄〉146 2.ピークフローによる自己管理 148 a.器具の種類,計測方法と計測時間 151 b.最大ピークフロー値,維持ピークフロー値の設定 152 c.ピークフロー値の評価 152 3.社会生活と喘息 〈長坂行雄〉153 a.喘息の原因あるいは誘因としての社会生活環境 153 b.喘息罹患による社会生活への影響 155 4.妊娠と喘息 〈宮城征四郎〉158 a.妊娠による母体の呼吸生理学上の変化 158 b.胎児の呼吸生理 159 c.妊娠中の内分泌および代謝系の変化 159 d.妊娠が喘息に与える影響 160 e.喘息が妊娠に与える影響 160 f.喘息が胎児に与える影響 160 5.妊娠中の喘息管理と治療 161 a.安定期の管理 161 b.急性発作時の治療 162 6.喘息と併発疾患 〈浅井貞宏〉162 a.喘息と糖尿病 162 b.喘息とリウマチ様関節炎 163 c.喘息とと感冒 164 7.喘息患者における禁忌薬剤 〈中島明雄〉165 8.夜間の発作は誰が見る? 167 a.発作の自覚と受診時間 168 b.医師の対策 169 c.医療システム 169§6 気管支喘息死亡は防げるか 〈宮城征四郎〉 1.喘息死亡の頻度 176 2.喘息死亡は増えているか? 178 3.喘息死亡の原因 180 4.喘息死亡の予防法 182§7 §気管支喘息の今後の展望 〈江頭洋祐〉 1.病態 191 2.診断面 192 3.治療面 192 a.喘息治療薬の開発および治療方法の改良や発見 192 b.予防薬および根治治療薬 194索引 197



