出版社内容情報
《内容》 透析患者の病態や致命率に重大影響をもたらす重篤な合併症である感染症にいかに対処するかについて実際的に示した手びき書である.本書は透析患者の感染症がもつ様々な特徴を解説し，感染予防に必要とされる知識，各種感染症の治療の実際を処方例などを示して具体的に述べている.又，この感染症の治療には抗菌薬，化学療法薬の使用法の工夫のみでなく，栄養管理，透析療法の工夫など全身状態，腎不全の管理が重要なことからこれについても充分に言及した.透析に携わる人々にとって福音となる必携書である. はじめに 透析患者は易感染性であるばかりでなく，感染症は患者の病態に及ぼす影響の強さや致命率からみて重篤な合併症の一つである.しかも，一般患者の感染症と比べていくつかの特徴がみられる.第一に，透析患者は免疫不全状態にあり院内感染や日和見感染を示すことが多い.しかも，敗血症や肺炎などの重症感染症が多い.第二に，糖尿病，嚢胞腎，膠原病，腎移植後など，腎不全の原疾患に基づいた感染症発症の促進因子をもつ場合がある.第三に，ブラッドアクセスの存在，体外循環，頻回通院，腹膜透析など，透析治療が感染機会を助長させる.第四に，感染症の治療は抗菌薬や化学療法薬の使用法の工夫が必要なだけではなく，栄養管理，透析療法の工夫など腎不全や全身状態の管理がきわめて重要である. 透析患者の感染症は一つの感染症分野を構成するものであり，透析医療に携わっておられる医師および看護婦は，感染症専門医と連携しながらも主体性をもって治療にあたらなければならない.本書では透析医の立場で透析患者の感染症の臨床経験をまとめてみたが，日常の透析医療に少しでもお役に立てれば幸いである.なお，感染症，化学療法にかかわる専門的な知識は多数の関連書を参考にしていただきたい. 平野 宏 1995年5月10日 《目次》 目次 I.透析患者の感染症の変貌 1.感染症の発生頻度 1 2.感染部位 2 3.死亡原因としての感染症 3 II.透析患者の感染症の特徴 1.安定期透析患者の感染症の合併頻度 6 2.死亡例の感染症の合併 7 3.剖検例での感染症の合併 8 4.透析患者の感染症の病原体 9 5.使用抗菌薬，化学療法薬 12 6.透析患者の感染症の特徴 12 III.化学療法 1.透析患者の抗菌薬の使用状況 13 2.抗菌薬の使用基準 14 a.β-ラクタム薬 15 b.アミノ配糖体系薬 19 c.マクロライド系薬 20 d.テトラサイクリン系薬 20 e.クロラムフェニコール系薬 21 f.fosfomycin (FOM) 21 g.clindamycin (CLDM) 21 h.vancomycin (VCM) 21 i.ピリドンカルボン酸 21 j.抗結核薬 22 k.抗真菌薬 22 l.抗ウイルス薬 23 IV.感染症の栄養 1.感染症における病態 25 2.感染症における栄養管理 25 a.経口栄養 25 b.高カロリー輸液 26 c.慢性透析患者の高カロリー輸液の基本 26 d.処方例 27 3.透析患者の手術後感染予防 27 V.透析患者の免疫能低下と易感染性 1.感染に対する脆弱抵抗性(免疫能低下) 29 a.皮膚・粘膜関門の異常 29 b.好中球 29 c.細胞性免疫 30 d.液性免疫 31 2.感染機会の増加 32 VI.感染予防対策 1.栄養状態の改善 35 a.適正エネルギー量 36 b.蛋白摂取量 36 2.運動療法 36 3.皮膚，粘膜の清潔 37 a.口腔の消毒 37 b.手洗い 37 c.入浴 38 4.透析室での感染予防対策 38 a.透析装置の消毒 38 b.ベッドサイドモニターならびに透析液供給装置の消毒 39 c.透析室の消毒 39 d.ブラッドアクセスの清潔保持 39 5.消毒薬の種類と特性 40 a.アルコール系 40 b.アルデヒド系 40 c.第4級アンモニア類(逆性石ケン) 42 d.両性界面活性剤 42 e.ビグアナイド系 42 f.フェノール系 43 g.ヨウ素系 43 h.塩素系 43 i.色素系 43 j.酸化剤 43 VII.主要臓器の感染症 A.中枢神経系感染症 45 概説 45 臨床病型 45 臨床経過 46 診断 47 治療 49 合併症 54 予後 54 症例呈示 55 B.呼吸器系感染症 57 1.急性上気道炎 57 概説 57 臨床病型 57 臨床経過 57 診断 58 治療 59 合併症，予後 62 予防 62 2.肺炎 62 概説 62 臨床病型 62 臨床経過 62 診断 63 治療 66 合併症，予後 69 予防 69 症例呈示 69 C.腎・尿路感染症 71 概説 71 臨床病型 71 臨床経過 72 診断 72 治療 73 合併症 74 予防 74 症例呈示 75 D.消化器系感染症 77 1.消化管感染症 77 概説 77 臨床病型 77 臨床経過 77 診断 78 治療 79 合併症 80 予後 80 症例呈示 80 2.胆道感染症 81 概説 81 臨床病型 81 臨床経過 81 診断 82 治療 83 合併症 84 予後 84 E.軟部・骨組織・関節の感染症 85 1.皮膚感染症 85 概説 85 臨床病型 85 臨床経過 85 診断 86 治療 86 2.皮下組織感染症(クロストリジア蜂窩織炎) 88 3.骨髄炎 88 概説 88 F.循環器系感染症 90 1.細菌性心内膜炎 90 概説 90 臨床病型 90 臨床経過 90 診断 91 治療 92 合併症 93 予後 93 2.化膿性心外膜炎 93 概説 93 症例呈示 93 G.ブラッドアクセス感染症 96 概説 96 臨床病型 96 臨床経過 96 診断 97 治療 97 合併症 99 予後 99 予防 99 H.敗血症 100 概説 100 臨床病型 100 臨床経過 100 診断 101 治療 101 合併症 104 予後 104 予防 104 I.不明熱 105 概説 105 臨床病型 105 臨床経過 106 診断 106 治療 108 予後 110 症例呈示 110 J.結核症 112 概説 112 臨床病型 113 診断 113 治療 116 予後 117 症例呈示 117 K.腹膜炎 121 概説 121 臨床病型 121 臨床経過 121 診断 123 治療 126 予防 130 症例呈示 131 L.ウイルス感染症 137 1.B型肝炎(HBV感染症) 137 概説 137 透析患者のB型肝炎の合併 137 臨床経過 138 治療 138 予防 138 HBVキャリアー患者の対策 138 2.C型肝炎(HCV感染症) 140 概説 140 透析患者のHCV抗体陽性率 141 透析患者のHCV抗体陽性率に関係する因子 141 HCV抗体陽性透析患者と肝機能検査 141 HCV感染防止対策 141 透析スタッフにおけるHCV感染 141 治療 142 3.ヘルペスウイルス群感染症 142 概説 142 4.その他のウイルス感染症 143 概説 143 5.ATL 143 概説 143 臨床経過 144 慢性腎不全患者のATLV感染 144 6.AIDS 145 概説 145 予防と治療 145 M.真菌感染症 146 概説 146 臨床病型 146 診断 146 治療 147 Deferoxamine (DFO)とムコール症 147 N.MRSA感染症 148 概説 148 臨床病型 148 臨床経過 148 治療 148 院内感染症の予防策 150 文献 153 抗菌薬一覧表 155 索引 161
