出版社内容情報
《内容》 本書は,分子生物学の基本をやさしく解説すべく,わかり易い文章と豊富なシェーマを用いて,雑誌「Clinical Neuroscience」に連載し好評を博した内容に加筆し,まとめたものである.遺伝子はどのようなものかに始まり,mRNAおよび蛋白質の合成,原核生物と真核生物の遺伝子,細胞の増殖および分化と遺伝子,DNAの複製,修復,組換えについて,また臨床と最も関わってくる遺伝子の解析と操作の基本についても簡潔に解説されている.序 最近の新聞やテレビの報道では,ほとんど毎月1回はヒトに対する遺伝子診断や遺伝子治療が取り上げられています.また,犯罪捜査等においてはDNA鑑定が行なわれ,証拠として採用されていることも報道されています.このように,遺伝子に関する事柄は,社会のなかでますます人々に身近なものとなっているわけですが,その内容を正しく理解するということになると,そう容易なことではないといえるでしょう.本書がそのためのテキストになれば幸いです. 本書は,「CLINICAL NEUROSCIENCE」という医学専門誌に1990年7月から1994年7月まで49回にわたって連載されたものをまとめたものです.はじめ編集部の方からは20回くらいで,というお話でしたが,つい長くなってしまいました.医学の専門家を対象として,分子生物学について復習し,最近の進歩についても「わかりやすく」解説する,というのが当初の目的でしたが,一般の方でもある程度の理科の知識があれば,理解できるのではないかと思います.ただ,記述が「わかりやすい」かどうかは,読者にご判断いただきたく思います.連載が長期にわたったために,同じ説明を繰り返して少しくどくなっているところがありますが,そのようなところは読み飛ばしていただきたいと思います. 分子生物学の進歩は著しく,この連載中にも一度解説したことを,その後の新発見のために説明し直さなければならなくなった,ということもありました.したがって,本書の内容のうち,新しい研究分野についての部分は,近い将来変更が必要になるかも知れません.しかし,重要なことは基本を理解するということでしょう.重要と思われる用語はゴチック体とし,索引にあげてあります.知識を整理するためにも,本書がお役にたてばと思います.1995年6月 著者 《目次》 目次1.遺伝子とはどのようなものか 1 A.蛋白質は遺伝子産物 1 蛋白質の機能 3 蛋白質の一次構造 4 蛋白質の高次構造 6 B.遺伝子の本体はDNA 72.真核生物遺伝子の発現 13 A. mRNAの合成 13 (1)転写 13 遺伝子の発現 13 RNA分子とその合成 13 転写の調節 14 (2)発現調節領域と転写因子 16 転写プロモーター 16 ホルモンによる転写調節 17 転写因子 18 エンハンサー 18 転写因子の構造と機能 19 DNA結合ドメイン 19 ロイシンジッパー 20 (3)RNAプロセシング 21 RNAプロセシング 21 キャップ構造とポリA 22 イントロンとエクソン 23 RNAスプライシング 25 選択的スプライシング 25 トランススプライシング 26 リボザイム 26 RNA編集 27 rRNAのプロセシング 27 遺伝子とは? 28 転写後の発現調節 28 B.蛋白質の合成 29 (1)蛋白質の合成 29 蛋白質の合成 29 コドン 29 リボソーム 30 トランスファーRNA 31 コドンとアンチコドン 32 アミノアシルtRNA 33 蛋白質の合成 開始反応 34 伸長反応 35 翻訳の終了 36 蛋白質合成と抗生物質の作用 36 塩基配列の読み枠と重複遺伝子 37 (2)塩基配列と突然変異 38 突然変異 38 遺伝子突然変異 38 ヘモグロビン遺伝子の変異 41 地中海貧血サラセミア 42 ABO式血液型 42 ABO式血液型の生化学 43 ABO式血液型の遺伝学 43 ABO式血液型の分子生物学 44 (3)蛋白質のプロセシングと輸送 45 蛋白質のプロセシング 45 ペプチド結合の切断 45 プレプロインスリン 45 プロオピオメラノコルチン 46 高次構造の形成 47 特定のアミノ酸の修飾 47 蛋白質のグリコシル化 47 蛋白質のリン酸化 48 蛋白質の変性,再生と高次構造 49 熱ショック蛋白質 49 大腸菌の温度感受性変異株 50 シャペロニン 513.原核生物と真核生物 53 A.原核生物と真核生物 53 始原細胞の分化 53 B.原核生物の遺伝子 56 (1)バクテリアの遺伝子 56 真核生物と原核生物のDNA量 56 大腸菌 56 大腸菌染色体の構造 57 大腸菌遺伝子の転写 58 誘導と抑制 59 ラクトースオペロン 60 転写と翻訳の共役 61 転写の終結と減衰 61 (2)プラスミドとファージ 62 プラスミドとは 62 プラスミドの構造 62 プラスミドの増殖 62 薬剤耐性遺伝子 63 大腸菌の性とプラスミド 63 プラスミドと遺伝子工学 64 バクテリオファージとは 65 バクテリオファージの構造 65 バクテリオファージの遺伝子 66 バクテリオファージの増殖 66 溶原性ファージ 67 ファージによる形質導入 68 バクテリオファージと遺伝子工学 68 C.真核生物の遺伝子 69 (1)染色体の構造 69 真核生物の複雑化 69 複雑化1 染色体の構造 69 染色体のバンドと遺伝子地図 70 複雑化2 2倍体 71 (2)塩基配列の繰り返し 72 複雑化3 遺伝子の繰り返し構造 72 ヘモグロビン遺伝子の繰り返し構造 73 真核生物のもつDNA 75 DNAの変性と再会合 75 複雑化4 反復配列 76 いろいろな反復配列 77 (3)クロマチンの活性と不活性 79 DNAの立体構造と転写 79 複雑化5 活性クロマチンと不活性クロマチン 80 ランプブラシ染色体 80 パフ 81 発現が抑制されている領域 82 ヘテロクロマチン 82 ヘテロクロマチンの代表 Xクロマチン 82 発現が抑制されている領域 844.細胞の増殖と分化 85 A.細胞増殖と遺伝子調節 85 細胞増殖調節についての研究 85 細胞外因子による細胞増殖の調節 85 促進と抑制 87 シグナル伝達 88 蛋白質のリン酸化 89 転写因子としてのレセプター 89 その他の要因 89 細胞周期の調節 89 コンピテンスとプログレッション 90 コンピテンス・細胞の状態 91 B.細胞分化と遺伝子発現 92 細胞増殖と細胞分化 92 動物の発生 92 発生の一般的特徴 93 極性や部分の決定と位置情報 94 ショウジョウバエの発生 95 体軸の決定 96 体節の形成 97 ショウジョウバエの体作り 98 哺乳動物の発生調節 985.遺伝子の複製,修復,組換え 99 A.DNAの複製 99 (1)複製のメカニズム 99 遺伝子の伝達 99 DNA複製のモデル 100 DNAポリメラーゼ 100 不連続的複製 101 DNA複製機構の研究 102 DNAポリメラーゼによる反応系 103 複製の反応系 103 複製の忠実性 104 染色体の複製 105 (2)複製の開始 105 複製開始の調節 105 レプリコン 107 大腸菌の開始点 107 真核細胞のレプリコン 108 (3)染色体の末端テロメア 109 環状DNAの複製 109 直線状DNAの複製とDNAの末端 110 直線状DNAの複製,アデノウイルスの場合 110 染色体の末端テロメア 110 B.DNAの修復 113 (1)DNAの損傷と修復 113 DNAは不安定 113 DNAの損傷 114 DNA損傷と細胞の生存 116 DNA修復 116 除去修復 116 光回復酵素 118 複製後修復 118 大腸菌のSOS 118 その他の修復系 119 (2)がんの発生と制がん剤の作用 120 DNAの損傷と突然変異 120 変異原と発がん物質 120 変異原の検出 121 がん遺伝子とがん抑制遺伝子 121 発がんのプロモーター 123 がんの増殖と制がん剤 123 制がん剤とDNAの損傷 125 DNA複製とDNA前駆物質合成の阻害 126 がん細胞の薬剤耐性 126 (3)修復に関わるヒトの遺伝病 126 DNA修復遺伝子の変異 126 色素性乾皮症 128 XP相補群,細胞融合による解析 128 DNA修復遺伝子の分離 129 C.DNAの組換え 130 DNAの柔軟性 130 相同的組換え 130 相同的組換えのモデル 132 組換えに関与する酵素 132 部位特異的組換え 133 それ以外の組換え 134 ジーンターゲッティング 134 挿入突然変異 135 転移遺伝子 135 反復遺伝子とDNAの増幅 136 抗体産生細胞におけるDNAの組換え 137 免疫グロブリンの構造 138 抗体遺伝子の再配列 139 抗体のクラススイッチ 140 超可変領域における突然変異 1406.遺伝子の解析と操作 141 A.DNA組換え実験法 141 (1)制限酵素 141 バクテリアにおける制限 141 制限酵素地図 143 DNAクローニング 144 (2)DNAのクローニングとスクリーニング 144 クローニングのベクター 145 制限酵素による切断と再結合 145 遺伝子ライブラリー 147 いろいろなベクター 147 構造と機能によるスクリーニング 147 DNA塩基配列の検出 148 サザンハイブリダイゼーション 148 コロニーハイブリダイゼーション 148 機能によるスクリーニング 149 その他のクローニングとスクリーニング 150 (3)塩基配列の決定法とPCR法 151 塩基配列の決定法 151 遺伝子解析の魔法PCR 153 B.遺伝子病の解析と治療 155 (1)遺伝子異常の診断と治療 155 遺伝病の塩基配列異常 三塩基反復配列の増幅 155 ハンチントン病 155 脆弱X染色体症候群 156 筋緊張性ジストロフィーとケネディー病 157 DNAの不安定性 157 遺伝子診断の結果 158 初期胚における男女の判定,着床前診断 158 遺伝子治療 159 遺伝子治療の方法 159 治療への応用 159 遺伝子治療の問題点 160 (2)標的遺伝子組換え 161 トランスジェニック動物 161 細胞に移入した遺伝子 161 逆転遺伝学 162 胚性幹細胞とキメラ動物 162 標的遺伝子組換え 163索引 165