内容説明
「男耕女績(織)」といわれるが、女性も農作業や商売に従事していたし、一家を支え、地方豪民の親分になることだってあった。恐妻家エピソードは笑い話ではなく、嫉妬を武器にみずからの地位を守ろうとする妻の真剣な抵抗ではなかったか。統計ではない史料から抽出した家族規模からはどんなことがわかるだろう。歴史のなかで、名前やときには存在すら見えなくなっている女性の姿をどうとらえ、実像にせまっていくのか。史料の選択と扱い方を唐代、宋代の妻と娘の生き方を例に示す女性史・社会史研究入門書。先行研究ガイドつき。
目次
1章 女が三度も結婚するとは!―南宋の裁判記録から
2章 無能な夫を持つ妻は…―『袁氏世範』の女性観
3章 「酢を飲む」妻と恐妻家―唐宋時代の「小説」史料から
4章 女親分もいた―南宋豪民の実態
5章 娘たちに遺産はいらない?―女性に関わる「法」と現実
終章 唐宋時代は何人家族?―史料から数値を読み取る
著者等紹介
大澤正昭[オオサワマサアキ]
1948年仙台市生まれ。1970年京都大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。1975年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。1997年京都大学博士(農学)。専門は中国前近代史、農業史、唐宋時代の社会史。奈良大学文学部講師、埼玉大学教養学部助教授、上智大学文学部教授などを経て、名誉教授。現在(公財)東洋文庫研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
22
家父長制の本家と思われがちな中国において、女性の地位はどのようなものであったのか。本書は「原理」ではなく、判決文などから見える「現実」に光をあて、唐宋時代の女性像を描き出す。例えば夫に対する意義申し立てとして離婚を勝ち取った女性、けしからぬこととして記されているが、当時そうした女性が少なからずいたことを物語る。本書は大学での入門ゼミがベースとなっており、歴史学という学問は史料をどのように読む学問なのか、その限界と魅力ということの具体的な例としても魅力的である。2021/11/18
さとうしん
19
唐宋時代の女性の地位は?時代の移り変わりによる変化は?夫婦や家族の関係は?家族の構成や人口比?こうした問題を小説、判決文、戸籍類など多彩な史料から探り出していく。ジェンダー論としても史料論としても読むことが出来る。本来そういう用途のために書かれたものではない史料から女性のあり方について読み解いていく試みは研究の参考になるだろう。2021/07/23
kuroma831
3
男性優位社会とされる唐宋時代における裁判記録や当時の小説などから、当時の女性たちの実態のあり方を探り、女性の社会での強さを見出す。個人的には「こういう女性が強い例もあった」という例示自体に異議は無いが、「当時の社会はそれほど男性優位社会ではない」という結論ありきの一足飛びにも見え、中国ジェンダー史としてはやや物足りなさを感じた。(当時の女性の社会的抑圧が矮小化されてないか?)しかし、史料に残る男性中心史観への課題提起としての役割は充分と思う。また、唐宋期の家族構成研究の章は実証的な要素も多く面白かった。2022/11/20
もち
3
裁判記録や小説から、当時の社会における女性の扱われ方等をみる。唐代には夫婦間の絆がゆるやかだったのが、宋代には現代でも通用するような絆が描かれていたりするのはおもしろかった。時代がくだるにしたがって、女性の財産分が制限されていったが、完全に財産分与が認められないわけではなかった点に女性の強さを見出しているが、私は制限の強さにどうしても着目してしまう。2022/05/29
tokumei17794691
2
・裁判資料を用いたとのことで購入。・4章「女親分」は期待していたのだが、項数も少なく物足りぬ。有力者が住人の支持のもと「自治政府」を開いていたのか、「暴力団が支配していた」のかの別が不明確。肝心の女親分もよく分からぬ。・唐宋時代も、案外現代日本と家族の人数(使用人を除く)は、変わらぬなとの印象。・「女性がこういう権利を行使した、主張した」との書き方だが、「女性がこういう義務・責任を果たした、果たそうとした」との視点が薄い。「男女差別がない」とは、どのような状態なのか? ・史料の選択・読み方には傾聴に値する2023/10/18