感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちえ
42
いわさきちひろさんの絶筆となった作品。人買いが来たときの一瞬の少女の表情、日本海の貧しい漁村…画家の渾身の思いが滲み出てくるよう。小川未明の文章と白黒のスケッチ、それぞれがあまりにもマッチしていてこれ以外の絵は想像できなくなった。作者、画家、それぞれのお子さんによる後書きも必読。特に松本猛さんの後書きからちひろさんがどれ程の思いで描こうとしていたのか伝わってくる。2020/06/06
陽子
37
このタイトルの本はいくつか出ているが、いわさきちひろの絶筆となった本ということで興味が湧き、ようやく手にした。同じ物語であっても絵本になると描く人でイメージが変わる。ちひろが病をおして、日本海の海まで出向いて描いた絵はモノトーンでありながら、砕ける波の音まで聴こえてくるようだ。ラフスケッチの絵。未完の作品だが、後書きで息子さんがこの作品を生み出すまでの秘話が興味深く、小川未明の作品を死の間際まで描こうとした作品への思いがより強烈に胸に残った。更に小川未明氏の娘、岡上鈴江さんの作品解説も大変印象的だった。2021/12/12
紅香@新刊購入まで積読消化あと4冊⭐︎
37
この本は、いわさきちひろさんの絶筆の作品。おじいさんの元にいる人魚が手が痛いのにも関わらず、蝋燭に赤色で絵を描いた真摯な姿と重なる。そして人間は優しい生き物だと信じ、自分の子どもを人間に託した母親の人魚の姿にも重なる。。この作品が、あらゆる作者よりも長生きな芸術が、未来の私たちの中の神聖な場所で火を灯し、そこで揺らぐ様を、感じたものをさらに未来への温波となって生き続けたいメッセージを感じた。喜びだけじゃなく切なさも悲しみも愚かさも同等に。2014/09/23
ヒラP@ehon.gohon
33
【再読】大人のための絵本。 いわさきちひろさんの遺作です。 遺作がこの物語であったことも、とても意味深い感じがします。 赤いろうそくと人魚の物語は、哀愁がいっぱいです。 人の性と人魚の健気な思いが切なく絡み合って、赤いろうそくに象徴されています。 いわさきさんの絵で赤はとても魅力的で存在感があるのですが、この絵本に色はありません。 なんだか目頭が熱くなる本でした。2022/01/25
りー
29
びっくりした。私の記憶の中では、この本はオールカラーだったから。ちひろさんの絶筆で、ラフスケッチのまま色がついていない。え?そうだっけ?でも、確かに絵蝋燭の色彩の記憶が…。多分、幼いころの私は、文章と線の力で無いはずの色を見ていたのだろう。母人魚が人間に寄せる信頼と、それを裏切った怒り。娘は全て分かっていたのだろうと思う。そして鬼に変わってしまった養父母との生活を最後まで愛していたのだろう。人間の業という楔を心に打ち込む物語。2021/06/20