出版社内容情報
3年前、会社から帰宅途中の吉田大輔氏は、最寄り駅から自宅までの間で一瞬にして19329人となった――第7回創元SF短編賞を受賞した表題作をはじめ、まっぷたつになった家で暮らし続ける一家とその観察に没頭する人々を描く「半分世界」、町じゅうが白と黒のチームに分かれ、何百年もの間“試合”を続ける町を舞台にした「白黒ダービー小史」など4編を収録。第39回日本SF大賞候補となった衝撃のデビュー作、ついに文庫化。
内容説明
ある夜、会社からの帰途にあった吉田大輔氏は、一瞬のうちに19329人に増殖した―第7回創元SF短編賞受賞作「吉田同名」に始まる、まったく新しい小説世界。文字通り“半分”になった家に住む人々と、それを奇妙な情熱で観察する群衆をめぐる表題作など4編を収める。突飛なアイデアと語りの魔術で魅惑的な物語を紡ぎ出し、喝采をもって迎えられた著者の記念すべき第一作品集。
著者等紹介
石川宗生[イシカワムネオ]
1984年千葉県生まれ。オハイオ・ウェスリアン大学卒。2016年「吉田同名」が第7回創元SF短編賞を受賞、翌年には第48回星雲賞の参考候補作に選出される。18年「白黒ダービー小史」が第49回星雲賞の参考候補作に、同年刊行された『半分世界』が第39回日本SF大賞最終候補作に選出される。20年には『ホテル・アルカディア』が第30回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さっとる◎
30
あらすじが用をなさないというのは素晴らしいことだなと思う。たった一言で表せてしまう一点突破の奇想、その先に広がってるやら掘りすぎて深くなりすぎたやらの景色。用意されたのは舞台だけで、夜には星が輝いてまた朝がくる。季節がめぐりにめぐり、見る者は見られている者になる。時間が過ぎて人物が登場しては去り、残された舞台には歴史が積もり永遠が現れる。もとが何だったのかはもう誰にもわからないし、もとには戻れない。それでもフジワリ、フジワレて、しまいには異国の神話めいた場所で私も来ないバスを待っている。見上げた空に星座。2023/03/11
シキモリ
21
表題作を含む全四篇の作品集。不条理でぶっ飛んだ事象を発端とするが、その後の発展をさもありなんと思わせるディテールの積み上げと理路整然とした流暢な語り口調による(良い意味での)胡散臭さが独特の味わいを醸し出す。こねくり回した挙句、哲学的な着地点に収束するのも面白いが、全力でふざけ倒す類の作品にしては晦渋な言い回しが多く、ディテールを積み過ぎて間延びするので、途中でダレてくる。渾身の作であろう「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」の後半は文字を追うので精一杯だった。私は「白黒ダービー小史」が一番好きかな。2021/01/29
かわうそ
20
発想の目新しさディテールのきめ細やかさにどこか懐かしい語り口。どれも面白かったけど、中でも「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」はコルタサル「南部高速道路」の変奏曲といった印象で非常に好み。こういうのがもっと読みたい!2021/01/31
Sakie
13
突飛な着想を、普遍のものとして世界を描くのとは違って、異質なものは異質なままに、大勢によってさらに展開されていく。そうきたか、と唸ること多し。表題作が面白かった。例えばフジワラーたちが藤原家の本棚に興味を覚え、片っ端から読むという展開には留めず、子供たちが「百年の孤独」の読書感想文を提出するとか、その教養をもって奇想小説を書きあげるあたり。そして、終盤のフジワラーたちをギャフンと言わせる仕掛け、そしてそれすら踏み倒して進むフジワラーたちのエネルギーと発想には人類の進化の謎を連想させるものがある。気がする。2024/11/13
ソラ
12
短編4本とも面白かった。世界観にすっと入らせてくれる筆力がある。2022/04/02