内容説明
地球=アルファ星系の星間戦争はとうに終結していた。だが、敵国アルファ系帝国の領地であるその衛星には、地球人の精神疾患者達が今もとり残され、連絡を断ったまま独自の文化を形成していた。この地を再び地球のものとすべく、地球側は調査部隊を送り込む。だが独自の思惑をもつCIAは、調査隊に一人の人造人間を潜入させた。著者が精神疾患への関心をもとに取り組んだ名編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
50
単純かつ複雑な作品なんてそうそうないものなのだが、この作品はディックの著作という前提をある程度当てはめれば非常にそれに近付く。やってることは単純だし、特に中盤あたりまでのストーリーテリングは非常に丁寧なものでわかりやすくて直感的にも面白い出来なのだが、終盤にかけてそのバランスが崩れる。アルファⅢM2に一堂に会してからはそれまで積み上げてきた緻密な設定をちゃぶ台を返したみたいにぶっ壊していくような話になる。もっといい着地点というか、展開があるような気もするのだが、その一方めちゃくちゃな軌道をとる物語のなかで2018/12/01
roughfractus02
8
自殺願望のある主人公と成功願望のある妻の間には共通性はない。両者のコミュニケーションも共通の対象はない。むろん、シミュラクラである主人公と人間の妻には類似という関係しか成り立たない。一方、違いがあるからコミュニケートできる粘菌種の隣人がいる。共通の真実を求めるから、世界が諜報機関の操る陰謀のように見えるのだろう。ならば、精神病者たちが7つの氏族として自立して生活するアルファ系星系に行けば彼は変わるのか? 面白いのは、アルファ星系に着き、共通性が皆無で似ているが異なる者たちとの中にいると、愛が仄見える点だ。2020/05/23
東森久利斗
4
社会から阻害、迫害され生き場所のない、声も出せず助けも求められない、精神に何らかの障害を持つ者、生きづらさを感じている人々、社会的マイノリティーの存在を明らかにし、現実世界への恐怖と強迫観念を払拭し、自己アイデンティティの再生を図り、圧力に対する蜂起を夢見る。難解な精神世界に逃避することなく、物語が迷走、破綻することなく、物語として分かり易く読み易い。ガニメデ星の粘菌クラム、微妙な超能力少女ジョウン、献身的で魅力的なサポートキャラの存在感が光る。反してアルファ系衛星の氏族の存在感、アイデンティティが希薄。2025/08/25
brzbb
3
TVドラマ化企画が開発中だという記事を読んでおもしろそうだったので。見捨てられた衛星の精神病院の患者たちが独自の文化を形成して……というSF版『まぼろしの市街戦』みたいな話なんだけど、なんと映画公開より2年前に出版されてる。映画と同じく正気と狂気を反転させる社会批評、CIAのために働く主人公がお笑い番組の作家になって異星人との政治的陰謀に巻き込まれていく前半はおもしろいんだけど、後半は『トータル・リコール』に出てきた願望充足の夢みたいになってしまう。いろいろ難点はあるけど、ドラマ化されたらおもしろそう。2023/06/23
カン
3
ディック初心者にはお薦めしません2018/02/23