内容説明
孤独なセールスマンの青年エドワードは、自社の新製品売り込みのため、大科学者の秘書アメリアの面識を得ようとする。奇妙な成り行きから彼女に好意を抱いたエドワードは、アメリアの計らいで大科学者の邸に招かれる。しかし時空を超える機能を備えた彼の発明品のせいで、二人は遠未来や火星を旅する羽目になり…。鬼才プリーストがウェルズに捧げる、郷愁と冒険の空想科学綺譚。
著者等紹介
プリースト,クリストファー[プリースト,クリストファー] [Priest,Christopher]
1943年、イギリスのチェシャー州生まれ。語り/騙りの技法を駆使した文芸性豊かなSF、幻想小説を執筆し、好評を博す。65年、Impulse誌に短篇“The Run”を発表しデビュー。74年、『逆転世界』で英国SF協会賞、96年、『奇術師』で世界幻想文学大賞、2003年『双生児』で英国SF協会賞およびアーサー・C・クラーク賞、11年に発表した『夢幻諸島から』では英国SF協会賞、ジョン・W・キャンベル記念賞をそれぞれ受賞する。現代の英国SFシーンを代表する作家の一人である
中村保男[ナカムラヤスオ]
1931年生まれ。東京大学文学部英文科卒業、同大学院修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Tetchy
48
他のプリースト作品に比べても格段に読みやすく、またH・G・ウェルズの『タイム・マシン』と『宇宙戦争』を本歌取りしているため、非常に解りやすいが、その後のプリースト作品の萌芽となるアイデアが垣間見られる。それはスペース・マシンという時空を旅することが可能なマシンが持つ特徴だ。この異次元に移動して存在を希薄化させる性能こそが作者がその後の作品のテーマとしている存在や実存という確かであるがゆえに不確かな物を作品ごとに色んな趣向を凝らして突き詰めていく源になったのではないだろうか?プリースト入門に最適の1冊だ。2015/03/12
けいちゃっぷ
12
H・G・ウェルズへのオマージュとは言え、プリーストだし長いしと身構えて読みだしたが、なんて読みやすいんだ。 『タイムマシン』から始まって『宇宙戦争』へと切り替わるが、後半になったら前半のあれこれをすっかり忘れてしまったよ。 それだけ前半も後半も「濃い」ということか。 プリーストは何の狙いがあってこれを書いたのか分からないが、19世紀の雰囲気やモラルは違和感がないような気がする。 566ページ 2016/06/06
鐵太郎
11
H・G・ウェルズの「タイム・マシン」と「宇宙戦争」を混ぜ合わせ、この二作品へのリスペクトをこめたパスティーシュ、というよりスチームパンクのハシリというべきか。19世紀のヴィクトリア時代の青年が、大科学者の秘書の美しい女性ととんでもない冒険をする話。長いのですが、面白い。久しぶりのプリースト節、いいね。2017/01/07
スターライト
9
1893年のイギリス、ヨークシャー州のとあるホテルに新製品の売り込みのため宿泊していた23歳の青年セールスマンのエドワードが、著名な発明家サー・ウィリアムの秘書アメリア通じてウィリアムに新製品を知ってもらおうと近づく。何とかウィリアムの面識を得たものの、彼が発明したタイムマシンで10年後の未来に行こうとするが、誤って火星に辿り着いてしまう。そこは奴隷制が敷かれた封建的な社会で、あろうことか地球侵略を目論むグループがいた。最後にウェルズが語る「科学と良心の闘い」という言葉が印象的だった。2024/06/17
sabosashi
6
この作品の多くの部分は、水上ベッドにて読みしもの。大雨によりベッドの下まで浸水が押し寄せるが、水がひいてくれるまでなすすべもないので、そんなときの慰めにはひたすら本を読みふけるしか能がなかったもの。時間的にも空間的にも、じつにひとひねりが効いている。さて、地球は大いに愛するにあたいする惑星であるが、この惑星に生きとし生けるものすべてがこの惑星を愛しているわけではなく、先行きのことを考えない人たちが多く、この惑星の最大の害獣はニンゲンだともいえる。2017/09/11