出版社内容情報
日中戦争中の上海。日英間の開戦を機に日本軍が上海のイギリス租界を制圧し、少年ジムは避難民の大混乱のなか両親とはぐれてしまう。独りぼっちになったジムは混乱する都市を彷徨う中、ほかのイギリス人とともに日本軍によって龍華捕虜収容所へ送られる。信用できる大人も庇護もないまま、飢餓、病、孤独、絶望に晒されながら、ジムは生と死の本質を学んでいく――スピルバーグによる映画化で知られる、二十世紀の歴史に名を刻むバラードの代表作を新訳決定版で贈る。
内容説明
1941年、第二次世界大戦の波が押し寄せつつある国際都市上海の共同租界。イギリス人少年ジムは、無邪気に零戦や模型飛行機に心を惹かれる日々を送っていた。だが、日本軍の侵攻によってすべては一変する。両親とはぐれひとりぼっちになったジムは龍華収容所へと送られ、長期の拘束を通して“人間のすべて”を学び成長してゆく。SFの巨匠バラードの原点となった傑作、新訳決定版。
著者等紹介
バラード,J.G.[バラード,J.G.] [Ballard,J.G.]
英国を代表する作家。1930年、上海生まれ。2009年没
山田和子[ヤマダカズコ]
1951年福岡県生まれ。慶應義塾大学中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Fondsaule
26
★★★★☆ SF作家として名を知られるJ.G.バラード。 これは子供の頃の体験を基にして、第二次世界大戦下の上海を描いた作品。 スピルバーグ監督で映画になっている。(評判はよくなかったようだが) 西洋と中国が入り混じり、そこを日本軍が占領しているという状態の上海。 戦争に対する嫌悪感と憧れのような思いという両方を抱く少年の感性。 内も外も混沌とした、そして多くの死を抱えた寂寥とした世界がよかった。2019/09/26
ちぃ
21
救われた少年兵の中には新しい生活に馴染めず戦闘に戻っていく子がそれなりにいると聞くけど、その心理ってこういうことなのかもと思ってしまった。ジムは兵士ではなかったけれど親と離れて捕虜として収容されて、戦争の中でできることをなんでもやって生き延びた。幼さも賢さも全部使って適応して本当に想像を絶する。戦勝国の被害者の経験を読む機会は多くないけど戦争ってほんとに誰にとっても平等にひどいものだと思う。いまもあちこちでこんな暴力と残虐性に晒されてる人たちがいることも、私たちに迫ってくるかもしれないことも、本当に辛い。2022/09/26
chang_ume
14
自壊する風景。そして部品の如き暴力。死体。バラード作品に通底する要素が出そろいます。これらはすべて、「戦争孤児」の知覚を通した経験だったんだなとわかる。この物語は本当の意味で、子どもによって切り取られた世界の総体=戦争を描いたのだろう。そして抜群に面白いけど、これも他バラード作品と同様に、じゃあ感動するかといえばちょっと違う。世界への距離感かな。このあたりが、やはり「戦争」を書き続けたヴォネガットと異なる点で、それはすなわち「壊され方」の違いに関わるのでしょうか。傑作だけど感動はしない。この人らしい。2020/04/30
塩崎ツトム
14
1945年の上海で、少年ジムは世界の終わりを見た。パッカードにリンカーン、零戦や疾風、そしてスーパーフォートレスとマスタングの残骸。そこに横たわる日本兵やイギリス人俘虜、それに中国人たちの腐乱死体、蝿の群れ。大人になったジム≒バラードが執拗に描いた黙示録的光景はすべてあの極東の魔界都市にあったのだ。2020/04/09
roughfractus02
12
第二次大戦時、両親と共に上海の収容所で過ごした過去を両親とはぐれる設定にしたのは、作者が過去の向こうの根源に出会いたいためなのか?廃墟、水のないプール、転がる死体から成る世界で飛翔に夢中になる主人公は、双子と思っていた日本の少年兵の死によって、一体だった欲望と世界が引き裂かれ、欲望のみが飛翔し続けるようになる。そして、飢餓による肉体の変化に固執する眼差しが生まれ、他を信ずる者の強さと自分を信ずる者の弱さを見分ける眼に成長する。そのような眼を作る根源に向けて作者は書く。その根源はおそらく「孤独」と呼ばれる。2020/11/05