感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
76
「あらしの鳥、あらしの夢」は『楽園の疾走』の骨子となったんじゃないかしら。この作品と言い、バラードは本当に子供(特に男子)に容赦なさすぎる・・・。「うつろいの時」はアルツハイマー症候群とも『ベンジャミン・バトン』とも解釈できると思う。そして自己犠牲の代償としての「薄明の真昼のジョコンダ」は事実を見てしまった子供が抱えるだろう罪悪感を考えると辛すぎる。「スクリーンゲーム」の宝石を嵌め込んだ虫達はダリの作品のジュエリー化のイメージで再生しました。でも「爬虫類園」と「たそがれのデルタ」は内容と表題が逆じゃない?2016/10/12
Dalia Violeta
18
表題作、「溺れた巨人」。嵐の後、巨人の死体が海岸に流れ着いた。ギリシア彫刻のような面持ち、その大きさとで「絶対的な存在感」を放つ巨人の亡骸。野次馬の喧騒をよそに、ゆっくりと崩壊し、波間に溶け込み静かに消えてゆく。青い空の下には、ただ一つ残された大腿骨とその上に止まる鷗。波にさらわれる砂のごとく、毎回気がつくとバラードの描く内的世界に、深部まで侵食されている。2014/03/15
しゅん
8
夏の雨の日にはバラードを読みたくなる。おそらく、降り止まない雨を眺め続けている気分に浸れるからだろう。湿気のようにまとわりつく醒めない悪夢の中、なにかしらの欠損を抱える主人公たちはなす術のなさにはじめから気づいていて、最終的に無力であることを突きつきられてもうつろな眼で佇むだけ。鴎に鳩に蛇と、大量発生した動物たちのおぞましさを描く時のペンは冴えていて、「スクリーンゲーム」に登場する宝石を嵌めた虫たちのイメージは特に鮮烈だ。2016/09/14
スターライト
8
「溺れた巨人」「爬虫類園」「たそがれのデルタ」「あらしの鳥、あらしの夢」「スクリーン・ゲーム」「永遠の一日」「うつろいの時」「薄明の真昼のジョコンダ」「ありえない人間」所収。全篇を通して、「水」「鳥」が共通して現れた印象。表題作はどこかで読んだ気がするのだが、その作品では海岸に打ち上げられた巨人の素性は一切あかされず、沿岸の人々がその巨人をどう扱ったかが淡々と語られ、とりたててストーリーは持ちあがらないのに、かえって心に残った。「うつろいの時」は時間の逆光を個人に焦点をあてて書き、どことなくユーモラス。2011/07/04
スズツキ
7
バラードって今まであまり好きではなかったのだけど、その認識が(少し)変わるくらい面白い作品がいくつかあった。「爬虫類園」は奇想ものとして満点。「あらしの鳥、あらしの夢」も良いね。2014/04/18