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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
75
物質の水晶化が進む太陽系で、地球上でその現象が起きている地域の一つであるアフリカの森を舞台に物語が進みます。色彩が乱舞するその宝石の森に魅了されるのは、癩病を病む人妻や瀕死の肺病の女性とその愛人、神を信じられなかった神父など、植物も動物もその煌めきに包み込み「死んでもいないが生きてもいない」状態にする不死性や永遠性に惹かれる人々。癩病の人妻を追ってきた主人公が彼女に感じる嫌悪と魅力はそのまま水晶化がもたらす不死と永遠に対する憧憬と恐れと重なっていて、作者が描く美しい、永遠と滅びへ進む世界を堪能しました。2024/09/17
藤月はな(灯れ松明の火)
74
メロドラマは三角関係というチープさに満ち溢れている。しかし、人が結晶化するという設定は『宝石の国』のような残酷な美しさを秘めている。人が結晶化する描写はアニメ『鋼の錬金術師』1期での石化病を思い出させるような静かな絶望と同化することによる一種の幸福に襲われました。特に結晶化しつつある身体から引き離されて戻りたがった将校の気持ちはなぜか共感。そのため、利己的で人のことを思いやらないサンダースに嫌悪感を抱いたのだと思います。また、想い人の夫でもある親友やセフレの女性に対して断絶を感じるところはあまりにも傲慢。2014/12/25
催涙雨
67
巨視的な認識では人の営みのほとんどが無意味であることをわれわれは理解している。すべてが相対的なものなのだ。地球上のすべてが静止して比較するものがなにひとつなくなるとき、わたしたちの心は完全なやすらぎを享受して無に還る。この作品の不条理な破滅にある種の甘美な心地を認めるのは、いつかそのときがくることに対する感覚を、識閾を超えて刺激されるからなのだと思う。わたしたちが無為に消費してきた時間が底を尽き、世界が結晶化する、遠い、いつか。この結晶のモチーフはすべてが単に失われ、単に無に帰すわけではないことを限りなく2019/06/16
翔亀
53
アフリカの森の中に何があったのか。コンラッド「闇の奥」よりも増して闇が深すぎて暗鬱になる。樹が鳥が建物がそして人が徐々に結晶化していく。宝石に似てその光景は例えようもなく美しく輝く世界。その美しさに酔えればいいのだが、それは時間と生命が封じ込められた世界。生命は結晶化される事でその中で永遠の命を得る。それは少しずつ窒息しながら快楽を得る人間の姿か。地球温暖化により少しずつ破滅に向かっている地球の姿か。毎朝少しずつ読み進めたら毎日が辛くなってしまった。強靭な精神を持つ人でないと溺れる恐れがあるので要注意だ。2016/05/25
Vakira
47
SFの設定として、地球の3ヶ所で結晶化が進んでいく世界。設定はSFだが、その世界の中で純文学ぽい人妻略奪物語。淡々と結晶化は進む。物だけではなく植物も動物も人間も・・・クリスタルになっていく。逃げる人間、逃げられない人間、あえて結晶の森に入り込む人間。主人公のサンダーズ医師を基軸にドラマが交差する。それに絡んでくるのがハンセン病だ。癩病。皮膚が病変していく病気とクリスタルになる結晶化の森が対象的だ。主人公は友人医師の妻スザンヌが忘れられない。スザンヌはハンセン病の医師で自分も感染してしまっている事に気付く2017/02/09