内容説明
あたしはトマシーナ。毛色こそちがえ、大叔母のジェニィに生きうつしと言われる猫。あたしもまたジェニィのように、めったにない冒険を経験したの。自分が殺されたことから始まる、不可思議な出来事を…。スコットランドの片田舎で獣医を開業するマクデューイ氏。動物に愛情も関心も抱かない彼は、ひとり娘メアリ・ルーが可愛がっていたトマシーナの病気に手を打とうともせず、安楽死を選ぶ。それを機に心を閉ざすメアリ・ルー。町はずれに動物たちと暮らし、“魔女”と呼ばれるローリとの出会いが、頑なな父と孤独な娘を変えていく。ふたりに愛が戻る日はいつ?『ジェニィ』と並ぶ猫ファンタジイの名作、新訳決定版。
著者等紹介
山田蘭[ヤマダラン]
英米文学翻訳家
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感想・レビュー
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mocha
117
動物に愛情を持てない獣医が、娘の可愛がっている猫・トマシーナを安楽死させたことで、娘は心を閉ざす。同じギャリコの猫ファンタジー『ジェニィ』の血を引くトマシーナだが、作風は全く違う。森で動物と心通わす女性との出会いは、科学とスピリチュアルの出会いでもある。今でこそ動物の命も人と同じように尊ばれているけれど、書かれた当時にはこの獣医のような考え方の人も多かったのではないだろうか。「たかが猫一匹」と。猫がどんな復讐を画策しているかも知らずに。2017/03/23
ぶち
109
深い示唆に富む物語で、すごく楽しみました。登場人物それぞれが語る内容は、イギリス風の風刺の効いていて、思わずハッとさせられたりもします。猫のトマシーナが少女について、"あの子たちが自分だけの世界に静かに閉じこもる、あの腹立たしいやりくちや、理屈の通らない指図や禁止をものともしない、特有の頑固な独立心には憶えがあるはず。・・・・そこが、メアリ・ルーとあたしの共通点だったのね。" そうなのよ、猫と少女はすごく似ているのよと、新たな発見をしたような気持になりました。ポールギャリコの傑作中の傑作だと思います。2020/05/10
あん
81
ぶたぶた図書館を読んで、ぶたぶたさんのお気に入りの本だったので、気になっていた本です。マクデューイという動物嫌いの獣医が、娘のメアリ・ルーが可愛がっていた猫のトマシーナを安楽死させることによって娘の愛を失い苦悩する姿、人との出会いによって温かい心を取り戻していく姿、またトマシーナを失ったメアリ・ルーが深く傷つき、この世の中の出来事から心を閉ざすようになっていく姿に読み応えを感じました。トマシーナの死から動き出した物語でしたが、最後がハッピーエンドで本当に良かった。ギャリコ初読みでしたが面白かったです。2015/02/09
小梅
80
素直に愛を表現できない不器用な獣医の心の葛藤や不安や孤独感が深く描かれているように思った。トマシーナが戻って良かった〜2014/05/28
(C17H26O4)
77
【猫読】こんな心ない獣医、嫌だわ。重篤だからって飼い主の気持ちを1ミリも想像することなく、躊躇なく安楽死させる。愛娘の大切な家族、トマシーナさえも。ショックで娘が言葉を喋らなくなったって、そりゃそうでしょうよ。母親は病死。猫は安楽死。娘はね、心で父親を殺したの。心を閉ざした理由が分からない?人として最低でしょう。そんな父親が変わるのです。森の魔女によって。単純すぎとも思いましたけど、人が劇的に変わるときって案外こんなかもしれない。猫の女神バスト・ラーと名乗る猫にくすっと。愛や心や神についての結構深いお話。2019/02/17