内容説明
引っ越してきたばかりの家。古びたガレージの暗い陰で、ぼくは彼をみつけた。ほこりまみれでやせおとろえ、髪や肩にはアオバエの死骸が散らばっている。アスピリンやテイクアウトの中華料理、虫の死骸を食べ、ブラウンエールを飲む。誰も知らない不可思議な存在。彼はいったい何?命の不思議と生の喜びに満ちた、素晴らしい物語。カーネギー賞、ウィットブレッド賞受賞の傑作。
著者等紹介
山田順子[ヤマダジュンコ]
1948年福岡県生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
295
本書は、明らかにウィリアム・ブレイクの詩と絵に着想を得、それをマジック・リアリズムの手法を摂取しながら書かれたものである。ただし、G・マルケスが描き出す世界の持つ、いわば混沌とした幽庵さはここにはない。むしろ、こちらは現実世界にマジカルなものが紛れ込んできたかの感があり、両者は深くかかわりながらも混じり合うことはない。物語は謎の存在であるスケリングを核としながらも、その推進者は隣に住む少女ミナである。また、スケリングの表現そのものは抑制のきいたものになっており、このあたりはイギリス文学らしいところだ。2015/05/04
(C17H26O4)
96
もし天使に出会っていたとしても、後から気がつくのかもしれません。崩れ落ちそうなガレージの隅で瘦せおとろえ、埃やハエの死骸にまみれて今にも死んでしまいそうだったグロテスクな存在。虫の死骸を食べ、背中に翼のような肩胛骨を持ち、スケリグと名乗った彼。マイケルとミナの純粋な好奇心と優しさが、スケリグの生きる気持ちを引き出します。そして不思議で美しい出来事が。不思議は不思議のままにしましょう。肩胛骨が翼になり、広がり羽ばたき、飛び立つところを想像する楽しさや喜び。祈りが通じたときの世界のかがやき。2019/08/18
sin
91
“楽天主義は児童書のならい”そうストーリーはめでたしで終わったけれど、もし彼との出合いが違っていたらどうだろう?疑り深い自分なら彼はただの浮浪者か…たとえその翼に出会えたとしてもそれは漆黒の翼でその後の展開は戦慄すべきものに成り果てたのではないだろうか?彼という存在はなんでもない、限りなく白に近い、そして限りなく黒に近い灰色。ただその人の本性を写し出す鏡のような者ではないだろうか?無垢な少年にこそ手にすることのできる“ギフト”それが彼…。2016/06/23
naoっぴ
89
とても不思議な物語だった。引っ越した家のガレージで見つけた瀕死の青年。病をもち、おぞましいほど臭くて汚くて会話もまともではない彼を、マイケルと隣家に住むミナは誰にも内緒で助けようとする。ごく普通の少年マイケルの日常の中、青年とミナとの三人だけの交流は奇妙だけど美しく感じられるのはそこに愛が存在するからか。どんな姿であれ困っている相手に注ぐ子どもの純粋な思いやりを目の当たりにして、大人の私が同じようにできるものだろうかと考えさせられた。見かけではなく本質を見られるかと問われているような寓話のような物語。2017/09/23
アキ
77
肩胛骨はなんのためにあるのか?マイケルが引っ越してきて出会ったのは、背中に翼のある死にかけのスケリグと、ウイリアム・ブレイクの詩と鳥のスケッチが好きなミナだった。とうさんは庭仕事をし、かあさんはあかちゃんの心臓の手術に気をもんでいた。手術の晩にスケリグがあかちゃんの背中に透明な翼を与え、彼は空の彼方へ飛んで行った。胸に大きな傷のある、生きて還ってきたあかちゃんの名前をぼくたちは<ジョイ>と呼ぶことに決めた。「肩胛骨は人間が天使だったときの翼のなごりなんだ。いつかある日、またここから翼が生えてくるって。」2021/06/04