内容説明
空にはすさまじい赤光があった。イギリスは片田舎の山奥の、その赤光に燃えたつ古代ローマ人砦に独り遊ぶルシアン・テイラーは、作家になる夢を紡いで暮らしていた。だが、こんな田舎にいて何ができよう。夢に憑かれた彼は故郷をあとにする。牧神が逍遥する山々からサバトの街ロンドンへ…。一人の青年の孤独な魂の遍歴を描く、神秘と象徴に満ちた二十世紀幻想文学の金字塔。
著者等紹介
マッケン,アーサー[マッケン,アーサー] [Machen,Arthur]
1863年ウエールズ、カーレオン・オン・アスクで、代々牧師の家系に生まれる。トマス・ド・クインシーやウォルター・スコットの作品に親しみ、詩作を試みるなど早熟な少年期を過ごす。軍医を志すも挫折した後、作家を目指してロンドンで創作活動を開始。出世作にして代表作となった「パンの大神」は、イギリスの文壇に大きな衝撃を与えた。40歳を前に一度筆を折り、約10年にわたりシェイクスピア劇の劇団員として生活を送る中で「生活の欠片」などを執筆。第一次世界大戦を機に、怪奇実話や随想を発表するようになり、文筆生活を再開した。1947年没
平井呈一[ヒライテイイチ]
1902年東京に生まれる。1923年早稲田大学英文科中退。訳書多数。1967年「小泉八雲作品集」12巻完成により日本翻訳文化賞受賞。1976年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おにく
33
めくるめく幻想小説を期待していたのですが、意外にも孤独な小説家の半生を綴った私小説風な作品でした。ロンドンの狭いアパートで独り、原稿用紙に向かう小説家のルシアンは、精神的に何度も浮き沈みする中で、感受性豊かだった少年時代の経験を何度も反芻する。牧神が棲まう野山を駆け抜け、幼なじみに対する淡い恋と性の目覚めは、彼の作品の源泉であり、自身が選ばなかった人生の後悔から、彼を何度も奮いたたせる。世間に中々認められなかったマッケン自身の心情を思い浮かべながら読みました。2024/10/03
kaze
13
『若い芸術家の肖像』のようでもあり『失われた時を求めて』風でもあり、しかし幻想怪奇テイストが強い。と思ったら『白魔』の人だったのか。納得。イギリスの農村部には魔の棲むエリアがあり、ロンドンには孤独と冷気と堕落がある。2021/12/16
まさ☆( ^ω^ )♬
11
ん〜なかなか難しかった。最近読んだ「恐怖 アーサー・マッケン傑作選」が面白かったので、同じようなテイストかと思っていましたが違いました。これは、アーサー・マッケンの自叙伝的な事と解釈して良いのかしら?幻想と現実世界が入り乱れている様な不思議な物語でした。再読必須かなあ。2022/05/02
ふみふみ
11
誇大妄想狂でキ印一歩手前の青年ルシアンくんが作家になるためロンドンへ出て、というお話ですが容易に想像がつく結末まで何の展開もなく幻想と心情描写をダラダラ繰り返すだけで読ませるマッケンの筆力にちょっと感心してしまいました。私がマッケン(平井訳)のスタイルに慣れたというのもありますが。2021/11/03
歩月るな
8
1907年作品。「読者はマッケンという作家の高度なファンタジーの質に分け入る過程で、必然的にその精神遍歴の意味を自分たちの問題として考えさせられることだろう」紀田順一郎氏の解説より。 小説家小説。作品を作る過程で絵の道にそれかかったりする所が実にあぁ、あぁ、……という感じで胸が苦しくなる。ごめんなさい。霧の町ロンドンの雰囲気がものすごく色濃く出ています。しかし鮮やかな色の表現が出て来ても、生ま生ましい「赤」以外の色はモノクロな原風景でイメージされる。いかにもロンドンらしい。ジッドの『パリュウド』に近いか。2015/06/22