内容説明
ベルギーを代表する幻想小説作家トーマス・オーウェンによる、『黒い玉』と対を成す珠玉の短編集。霧深い夜、宿を求めた酒場で行われていたのは、雌豚を見に行く権利を賭けた奇妙なゲーム。それに勝ち、納屋に案内された男が見たものとは―。悪夢のような一夜の体験を淡々と綴り、長く深い余韻を残す傑作「雌豚」、奇妙な味わいの掌編「青い蛇」など、十六の不気味な物語を収録。
著者等紹介
加藤尚宏[カトウナオヒロ]
1935年生まれ。早稲田大学文学学術院名誉教授。専門は19世紀フランス小説(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
68
『黒い玉』が怪奇色の強い作品を集めているのに対し、こちらは奇妙な味といった趣が強い。ただ内容はどれも「不吉」という言葉が連想されるような作品ばかりで、『黒い玉』に勝るとも劣らず満足。一番の白眉は吸血鬼譚にしてファムファタルを描く「危機」ですが、奇妙な理不尽さが目立つカフカ的な「青い蛇」、賭けで雌豚を見に行く権利を勝ち取った男が見たものを描く「雌豚」やその後を連想するのも恐ろしい「ドナチエンヌとその運命」等、どれも技巧を凝らして読者を恐怖へと誘い込んでいる。ベルギーの曇り空のように陰鬱さを感じる一冊でした。2021/02/21
あたびー
19
一口に翻訳小説と言っても、英語のそれと仏語のそれは、やはり日本語にした後でもリズムが違う気がする。フランス語のリズムは、例えばフランス映画の中で早口で小刻みに語られる語り口を思わせる。それはさておき。「黒い玉」と本来一冊をなす短編集である本作には「黒い玉」と同じく妖しい女たちのイメージが付きまとう。死女や老女に魅入られること。ヴァンプ。中でも賭けに勝って雌豚を見に行く権利を手にする話「雌豚」は眞にシュールな話。幼児期のトラウマともとれる表題作「青い蛇」は、この中では異色。2019/04/03
Ayah Book
18
創元さん復刊ありがとうございます。「黒い玉」に続く幻想短編集。正直に言うと「黒い玉」のほうが好きでしたが。。。こちらはちょっとストーリー放棄というか展開やオチがちょっとパターン化されている気がしてしまった。でも、不気味な雰囲気はやっぱり素晴らしいです。好きだったのは、下品で哀れな誘惑「雌豚」、魔術的な「黒い雌鳥」、妖しいファンタジーのような「夜の悪女たち」、魅力的な美少女は実は。。。の「危機」でした。後半の作品のほうが好きでした。あと、解説が面白く、ジャンレイという友人が本当にいたんだと驚きました。2020/10/26
翠埜もぐら
15
前作の「黒い玉」が怪奇ならばこちらは不条理でしょうか。どの話も最後が帰着すると言うよりは突き放されて終わることが多く、ちょっと消化不良気味。短編なので込み入った話ではなくてももう少し奥行きが欲しいのは方向性が違うかしら。 しかし、「雌豚」は大変不快な話ですが一番インパクトがありました。思い込みゆえに幻を見たのか、それとも何か別な解釈があるのか。いや、あんまり深くかかわらない方が良いと思うぞ。2020/12/19
lovemys
13
不気味で気味悪い感覚が残るものが多かった。説明されなくては分からないものも多く、説明がないだけに理解できてるのか出来ていないのか分かりかねるものが多い。全体的にゾッとするような美しさのようなものも感じられた。結局何だったのか分からないものも多かったが、それを説明しないからこその怖さと余韻が読後ジワジワと効いてくる。本当、気味悪いゎ。2022/09/19