内容説明
夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。
著者等紹介
オーウェン,トーマス[オーウェン,トーマス] [Owen,Thomas]
1910年、ベルギー、ルーヴァンの弁護士の家庭に生まれる。犯罪学の研究で博士号を取得。弁護士として企業の法律顧問となる。文芸評論、美術評論、推理小説、幻想小説…と幅広い分野で活躍。2002年没
加藤尚宏[カトウナオヒロ]
1935年生まれ。早稲田大学文学学術院名誉教授。専門は19世紀フランス小説。2015年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
79
再読。ベルギーの幻想文学作家の短編集。ルドンの表紙に象徴されるような不気味な表題作からコミカルな作品、純粋な怪談までと収められている作品は幅広い。白眉はやはりカフカ的な物を思わせる表題作『黒い玉』。理由はわからないがこういう何かに取り込まれるものってやはり純粋に怖いと感じる。他にも「バビロン博士の来訪」「旅の男」「染み」等、原因はあり結果もあるのだが、それが何かわからないという作品が多く、こういう作風が好きな自分には大満足。どれも奇妙に静謐な不気味さを湛えていて、やはり自分はこういう作風は大好きである。2020/05/08
ehirano1
57
黒い玉はまっくろくろすけ?2019/06/15
あたびー
43
#日本怪奇幻想読者クラブ 久しぶりの再読。まるで英語圏の人の様な名前だが、ベルギー人なのだ。フランス語で書かれた短編小説群。彼の物語を読むと19世紀が舞台のように思われるけれども、1910年生まれ。世紀を跨いでから亡くなった人だ。痛々しいほど弱い人間の精神が各所に表現されている。それは誰もが持っている、因幡の白兎のように赤裸の写し絵なので、舞台設定の奇妙さがより身に染みるのかな。2022/02/04
ミツツ
34
サブタイトルには「不気味」とあるけど作者はベルギーの幻想派といわれているのでその方がしっくりくる短編集でした。表題作の「黒い玉」はあのまっくろくろすけ風の「何か」でその「何か」を知りたい思いで手にとったこの御本。すっかりトーマス・オーウェンに病みつきになりそうです。2019/04/08
藤月はな(灯れ松明の火)
22
現実のはざかいにふとした時に現れそうな不気味なリアリティのある物語の世界に引き込まれそうになりました。挿入される文章の引用も意味深です。お気に入りは純真無垢故というよりも自分勝手で悪辣非道で狡賢く、地獄に落ちるほど、愚かな少女の末路を描いた「公園」や「旅の男」、現世か夢かが分からなくなる「染み」、見えぬ悪意の行く末「謎の情報提供者」です。どうやら、私は少女の愚かしいまでの身勝手さが報いを受ける話が好きなようですorz 2011/05/28