出版社内容情報
大下 宇陀児[オオシタウダル]
著・文・その他
内容説明
日本探偵小説草創期に江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠の短篇の精髄を全二巻に集成した文庫傑作選。本巻では、証書偽造が発覚した青年事業家が企む周到な殺人計画とその顛末を描き代表作のひとつに数えられる表題作をはじめ、奇抜な毒殺方法を扱った倒叙形式の秀作「爪」、ある家庭を襲った誘拐事件をめぐる著者最後の短篇「螢」など、戦後の作品を含む全八篇を収める。
著者等紹介
大下宇陀児[オオシタウダル]
1896年長野県生まれ。九州帝国大学卒。1925年に第一作「金口の巻煙草」を“新青年”に発表、29年“週刊朝日”連載の『蛭川博士』で人気作家となる。独自のロマンチック・リアリズムのもと犯罪心理や風俗描写に優れた探偵小説界の巨匠として、江戸川乱歩、甲賀三郎とならんで戦前の日本探偵小説の三大家に数えられる。51年『石の下の記録』が第4回探偵作家クラブ賞を受賞、翌年から54年まで探偵作家クラブ会長を務める。66年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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くさてる
20
「偽悪病患者」が面白かったのでこちらも手に取りました。日本探偵小説創草期の作家の短編集。時代ならではの古さはもちろんあるものの、物語そのものの展開や人間心理の綾は時代を越えて面白い。後味がどこまでも悲しく苦しいけれど、それだけではない「情鬼」、この冒頭からどうしてこんな話にたどり着くのか、つくづく巧い「不思議な母」高橋葉介で漫画化してほしい「危険なる姉妹」が特に印象に残りました。2023/03/29
ちょん
16
読み進めにくかった!だけど面白くて続きが気になる、でも読みにくい(笑)短編集でしたが読み終わってからもう一度タイトルとあらすじを思い出していくと、どれも骨太いお話ばかりだったなと。ちょっと読みにくい、苦手だなと思う本にもチャレンジしていきたいと思う今日この頃です。2024/11/13
Urmnaf
13
前巻(偽悪病患者)よりもさらに魅力的な作品が多くなった全8篇の短編集。人間を描くことにこだわった変格の雄だけあって、探偵小説というより犯罪小説。結果、ちょっともの悲しい(結末が多い)。ある悪党と彼に助けられた女性の最後の行き違いが悲しい「情鬼」や、神童と呼ばれた少年が長じて道を外し母を裏切ろうとするが、すんでのところで真実を知るも自らは滅んでいく「凧」が印象に残る。中で「爪」なんかは、ちょっとパズラー臭がする倒叙モノだけど。2023/02/08
Kotaro Nagai
10
昭和3年~35年までの短編8編とエッセー2編を収録。「烙印」(昭和10年)は倒叙ミステリーで犯人の青年の心理を克明に描き傑作と思います。「爪」(昭和3年)も倒叙型の作品で大下作品の探偵・俵弁護士が後半登場。これも面白く読めた。「情鬼」(昭和10年)と「凧」(昭和11年)では謎解きよりは犯罪に至る心の動きの描写に重きを置いた作品でむしろ文学性を感じさせどちらも力作。戦後の「不思議な母」(昭和22年)は語り口の巧さに引き付けられる。エッセー2編では乱歩ら他のミステリー作家と作者の立ち位置が伺え興味深い。2024/12/08
Inzaghico (Etsuko Oshita)
8
収録されている作品は昭和3年から昭和35年のもの。読んでいると、時代が変わっていくのがよくわかる。そしてどれも人間の黒いどろりとした性が垣間見えるのが、ぞくりと怖い。「不思議な母」の語り手の母の、偏狭な視点で行ったり来たりしながらも、最後に最初の答えが正解だったというお話。ただ、正解に至るまでに身近な人を失うという代償を払う。最後の「お母さんは、決して気が狂ったんじゃないのだからね」という一文は、まったく反対のことを実は言っているのではないか。2022/09/26