出版社内容情報
暑く長い夏休み、東京から小笠原へ久しぶりに帰郷した大学生の木村洋介。難病を抱える初恋の女性・丸山翔子に会うのが忍びなく、高校卒業して以来帰りにくかったのだ。ただ静かな夏休みを送りたかっただけなのに、帰郷当日から東京でつき合った中高の同級生・一宮和希にはストーカーの噂がまとわりつき、島一番の秀才と謳われた藤井智之は不可思議な言葉を呟く。平和で退屈だったはずの島に、どこか不穏な空気が漂うなか、二つの事件が続けざまに起こる――。常夏の島を舞台に、名手が伸びやかに描いた青春ミステリが、大幅改稿、決定版で登場。
樋口有介[ヒグチユウスケ]
著・文・その他
内容説明
大学の夏休みに、洋介は2年ぶりに小笠原へ帰省した。難病に苦しむ初恋の女性に会うのに忍びなく、帰りにくかったのだ。竹芝からフェリーで26時間、平和で退屈なはずの島では、かつての同級生がストーキングされていると噂が立ち、島一番の秀才は不可思議な言葉を呟く。やがて続けざまに起こった二つの事件。常夏の島を舞台に、伸びやかに描いた青春ミステリを大幅改稿で贈る。
著者等紹介
樋口有介[ヒグチユウスケ]
1950年群馬県生まれ。國學院大學中退。88年、『ぼくと、ぼくらの夏』でサントリーミステリー大賞読者賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おかむー
50
あらすじには「青春ミステリ」とあるが、「青春にサヨナラをいうミステリ」のほうが正しい。『よくできました』。エキセントリックな画家の父のもと屈折した主人公・洋介、東京の大学から夏休みで小笠原へ帰省するが、高校時代の友人の死からなにかが動き始める。■一歩間違えばハルキムラカミかといった洋介だが、諦観に見えて内心もがいている様が漏れ出ているあたりが青春らしくてよい感じ。閉塞感の漂う小笠原での聞き込みから違和感を繋げるタイプのミステリなので起伏には欠けるが、結末には爽快とまではいかなくとも納得がいくので好感。2020/11/08
カブ
46
大学が夏休みの洋介は、東京竹芝からフェリーで26時間の小笠原へ帰省する。そこで起こる2つの事件。懐かしい小笠原の風景と、美しい植物や昆虫など自然の描写が美しい。暑い今の季節にピッタリ!2018/08/13
HERO-TAKA
18
中公文庫版読了済み。およそ20年ぶりに創元推理文庫版として出版された今作は、作者らしく大幅改稿されており、読んだ感覚も当時と違い驚いた。舞台は小笠原諸島。本土とは違う亜熱帯の自然の豊かさ。1週間に1度の船の定期便しかない孤立したスモールタウンの様子とその中で絡み合う人間関係。楽園の中で青春を過ごし大人になり気付いてしまった子どもたち。モテる主人公が様々な理由で島にいる美女たちの人生を通過していく経緯。まさに樋口有介さんの独壇場ともいえるような絶好の舞台であり、この内容を書かせて面白くならないわけはない。2019/03/31
かずじん
8
絵に引かれて手に取って、帯の『著者ベスト級』という文字に引かれて購入。主人公は少しモテるやつで嫉妬を覚えながら読んでましたが、そのモテる人望を生かして登場人物達が知っている情報を集めていって事件の真相を暴いていく流れは普通にミステリーになっていて読みごたえがありました。小笠原諸島の神秘的な自然も書きつつ、島独特の閉塞感や、ある人の人生に他人が影響を与えることは難しいといった残酷な現実感も書かれていたのが記憶に残ってます。いろいろと考えさせられた本でした。2018/09/08
文庫本依存Hiro
7
『海泡/樋口有介』読了。東京都に属しながら下手な海外よりも遠くにある小笠原諸島が舞台。諸島部だからこその人間関係の濃密さ、息苦しさをベースに、島の中に閉じ込められる閉塞感や島に帰って来ざるを得ない敗北感といったコンプレックスがある一方で、小笠原にしかない解放感に癒されたり許されたり甘えたり、という屈折の描写が見事。今まで知らなかった小笠原のエピソードを垣間見ることができただけでも楽しいのに、ミステリ的な捻りも堪能できる一冊。2018/07/25