内容説明
イタズラ電話が元で、凶行直後と思しき女の肉声を聞いてしまう男が、その内容だけを手がかりに犯人の正体に迫ろうとする『妻に捧げる犯罪』。文芸評論家の失踪に端を発する事件の陰に飛び交う「鴉」の謎を追う千草検事。「週刊文春」誌の年末恒例「傑作ミステリーベスト10」’80年度第2位に輝いた著者の代表作『盲目の鴉』を併載。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
30
『妻に捧げる犯罪』わずかな言葉の手掛かりから想像の翼を広げて謎の電話相手に辿り着く過程は面白い。追う側から追われる側へと反転するサスペンスの盛り上がりも読ませる力がある。もっと主人公の狂ってる感じを挟んでいないと、とってつけた印象。『盲目の鴉』著者の文学趣味満載。全く関係の無さそうな2つの事件が鴉のワードで繋がる展開は良かったが、あまりにすっきりしない終わり方。トリックそのものはご都合主義にみえてしまいかねないが、それを支える伏線の何気ない張り方に本格のフェア精神を見た。2019/01/16
MIRACLE
0
第四巻は『妻に捧げる犯罪』『盲目の鴉』の二編を収録(解説・麻耶雄嵩)。『妻』は犯罪を追う側が、成り行きから、追われる側になる皮肉を描いた転倒劇。『鴉』は文学史から題材をとった格調高い長編推理(短編「泥の文学碑」が下敷き)。結末は消化不良とはいえ、読み応えがあった。第三章「ホメロスの殺人」の文章に戦慄(ある事実が判明する)。土屋作品のキーワードは因果応報である。因果が犯人を犯罪に駆り立て、応報が犯人に罰をあたえる(罪と罰)。千草検事たち捜査陣がよって立つ近代的な法制度は、その触媒にすぎない。2016/04/29
よっちゃん
0
謎解きと叙情とのみごとな融合 20年以上前の名作 。謎の仕掛けも精緻ですが、実在のふたりの詩人にまつわるエピソードが巧みに織り込まれている。また著者のこの詩人たちに対する独自の視点が読んでいて面白く、著者の文人としての力量を垣間見ることができる。謎解きを主流にした最近のパズル型ミステリー作品にはなかなかこのような謎の周囲にある構築物に手応えのあるものが少なくなった。そして謎の複雑さだけを競うような作品やあるいは作者の独りよがりな衒学趣味の押し付けが目につく。 『盲目の鴉』を読むと一層その印象が強まる。2005/06/24