内容説明
過ぐる昭和の半ば、探偵小説専門誌「宝石」の刷新に乗り出した江戸川乱歩から届いた一通の書状が、伸び盛りの駿馬に天翔る機縁を与えることとなる。乱歩編輯の第一号に掲載された「五つの時計」を始め、三箇月連続作「白い密室」「早春に死す」「愛に朽ちなん」、花森安治氏が解答を寄せた名高い犯人当て小説「薔薇荘殺人事件」など、巨星乱歩が手ずからルーブリックを附した全短編十編を収録。作家デビューから半世紀を経てなお新しい読者を獲得し、熱い視線を受け続ける本格派の驍将鮎川哲也…若き日の軌跡を窺う奇貨居くべき傑作短編集成。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
349
相当面白い短編集。傑作選だけあって個々の作品のアベレージが高い。鬼貫物と星影物が交互に並ぶ構成も良く、短編集にしては分厚い部類にも関わらず、飽きも感じない。トリック自体は、無理筋なものや陳腐なものも混じっているのはたしか。表題作『五つの時計』も、充実した仕掛けで魅力的ではあるが、実際はあり得ない。ただ、そういうのも含めて、脳の運動としてゲーム感覚で楽しみましょう、というリラックスした作風と筆致。まさにパズラー。『白い密室』と『薔薇荘殺人事件』、あとは『不完全犯罪』なども割りと好きだった。2018/05/12
KAZOO
34
10の短編が収められています。一つ一つに乱歩の解説が掲載されています。最近の若い人が読むと時代性を感じさせて違和感を覚えるでしょうが、私の年代にとっては本格的な推理小説だと感じます。どれも水準以上で楽しい限りです。2014/04/11
geshi
32
名作ぞろいの純正の本格推理小説。短編の中にトリックとそれを支えるアイデアそしてフェアに伏線が張られる、どれも見事な作品ばかり。特に表題作は安易なアリバイトリックにも関わらず、半分を謎解きシーンで読者を煙に巻いてしまうマジックのような手口。『白い密室』はシンプルな逆転とそれを補助する語りの妙。『道化師の檻』は不可能性が強固になった末に次元を一つ上げる発想。『薔薇荘殺人事件』は大きな仕掛けには気づいても細かなWHYからのロジックの組み上げには気付けない犯人当ての正道。2017/08/04
本木英朗
30
巨匠・鮎川哲也の短篇傑作選1巻である。過「五つの時計」をはじめ、「白い密室」や「薔薇荘殺人事件」、「不完全犯罪」など10編を収録している。いやー、さすが鮎川先生である。俺は2002年に一度だけ読んだっきりだったので、今回で2回目であるが全部やられてしまったよ、うん。これはもう、«日本のクイーン»とか«日本のカー»ではなくて鮎川本人が出てくるってことだろう。満足であった。いやいや、よかったねえ。次は引き続き2巻だけれど、それまでに他の作家に入るかねえ。2020/04/26
ヨーコ・オクダ
29
いやぁ、コレお得な本よね。鮎川センセの作品が10本も読めて、それぞれ乱歩センセの紹介文がついてて、巻末には有栖川センセ、北村センセ、山口センセの談話が載ってて…。鬼貫警部、探偵・星影、小説家・鮎川がそれぞれのストーリーの世界へ引っ張っていってくれる。ホンマに「傑作集」なのでお気に入りの作品を挙げるのが大変なんやけど、「白い密室」「道化師の檻」「薔薇荘殺人事件」がより印象深かったかな。「薔薇荘〜」の解決編を担当した花森氏は、若干鮎川センセをディスってるような…?アレはあんまり好きやないな〜。2019/06/29