内容説明
展覧会場から、はたまた侯爵邸から、まんまと目当ての品物を盗み出す怪人が出没した。しかもその顔は無気味な金色の仮面に隠されていて、正体が掴めない。事件解決に乗り出した名探偵明智小五郎も怪盗の狡知に振り回され、切歯扼腕するばかり。だが、頭脳の闘いなら明智も負けてはいない。恐るべき敵の正体を明らかにし、凱歌を奏する日も近い。手に汗握る推理と冒険の傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
137
★★☆☆☆ 乱歩にしては健全な、少年探偵シリーズに通ずるところのある作品。 明智小五郎とルパンとの戦いが描かれる。当然ルブランの許可は取っていない。 ルパンシリーズを読んだことのある人ならニヤリとするような小ネタが満載だが、ルパンが日本人に対し差別的な考えを持っており、容赦なく殺人を犯すという設定はやめて欲しかった。 ポーの作品『赤死病の仮面』やホームズ物の『空家の冒険』と類似のネタを出典を明記しつつ使っているのは面白い。 ルパン登場も含めて、乱歩の好きな作品のごった煮である。2020/03/24
優希
121
面白かったです。黄金の仮面をつけた怪盗の大胆不敵な手口による日本古美術の盗難事件から始まり、息をする暇もないほど、怒涛の展開が繰り広げられていきます。黄金仮面対明智小五郎の対決は明智が負けてばかりなのが不安を誘いますが、それだけ相手が手強いということでしょうか。名探偵と大怪盗、警察が入り乱れての活劇は引き込まれます。そしてまさかの不二子にルパンとくるのだから、夢のコラボという感じで驚きました。意外性をかなり突いてくるのがツボです。2016/07/12
セウテス
76
〔再読〕乱歩先生の作品の中でも、特別な作品です。何故ならこの作品以降、黄金バットや七色仮面、月光仮面などのタイトルに、多大な影響を与えたと考えられるからです。そしてもう一つ、本作は1931年に書かれていますが、後々の怪人二十面相に繋がる作品だと思われます。勿論本作の大怪盗は、二十面相ではありません。恋した不二子嬢を拐おうとする怪盗と明智の対決は、小さなトリックも含めて本格ミステリーに仕上げる事も、出来たのではと思われます。個人的には終演後の不二子嬢の行く末が知りたい処ですが、退廃的な描写の少ない作品です。2016/05/03
夜間飛行
48
乱歩は子供騙しの道具立てを用いる。そして材料がちゃちであればあるほど、それが活かされる過程はぎらぎらと魔術性を帯びる。乱歩作品は選択肢の中での犯人捜しではない。犯人は無限に存在し、仮面や影として姿を現す。冒頭で「百年に一度~どんな小説家の空想よりも、もっと途方もないことが」と語られるように、歴史がくり返し魔を生むのが乱歩の世界である。まさしく黄金仮面は赤き死を演じることで命を得るのだ。乱歩の描きたかったのはこの命を持つ仮面の無気味さ、驕傲さだろう。黄金仮面は誰でもあり誰でもなく、血を流して笑い続けるのだ。2013/12/04
Tetchy
26
『蜘蛛男』、『魔術師』、『緑衣の鬼』などの猟奇物から一転して名探偵対謎の仮面の怪盗という、娯楽に徹した作品で、もちろん凄惨なシーンは出ない。で、もうこの黄金仮面の正体は物語半ばですぐに判断がつく。しかし当時も今も日本のミステリシーンはホームズとルパンの2大キャラの影響下にずっと置かれているのだろうな。黄金仮面のデザインは現在なお、一連の怪人物でも使われるほど有名(乱歩オリジナルではないんだろうけど)。怪人二十面相の原型となった作品とも云えよう。2009/07/25