内容説明
社交界の花形にして暗黒街の女王、左の腕に黒蜥蜴の刺青をしているところから、その名も〈黒蜥蜴〉と呼ばれる美貌の女賊が、大阪の大富豪、岩瀬家が所蔵する日本一のダイヤ「エジプトの星」を狙って、大胆不敵な挑戦状を叩きつけてきた。妖艶な女怪盗と名探偵明智小五郎との頭脳戦は、いつしか立場の違いを越えた淡く切ない感情へと発展していく。あまりにも著名な長編推理。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
161
★★★☆☆ 明智と女盗賊「黒トカゲ」の戦いを描いた長編。 黒トカゲが僕っ娘なのに驚かされた。戦前から僕っ娘がいたとは! 妖艶な黒トカゲは魅力あるし、明智との頭脳合戦も見応えがある。特に通天閣での騙し合いは良かった。 明智と黒トカゲの関係をもう少し濃密に描いていればもっとすごい作品になる可能性があったと思う。さすがにこの描写では恋に落ちるのには足りないように感じた。 なお、この作品でも『人間椅子』のセルフパロディが登場。よっぽど好きなんだね。2020/03/27
優希
137
面白かったです。明智小五郎の長編。日本一のダイヤをめぐり、黒蜥蜴なる妖しい夫人と繰り広げる攻防戦に引き込まれました。大胆不敵な挑戦に立ち向かう明智。2人の駆け引きが続く中で生まれていく感情には切なさを感じます。本当に黒蜥蜴は明智を愛してしまったのか。最後のミステリアスな雰囲気が哀愁を漂わせているように思えました。2017/02/02
スエ
85
ある時は黒天使。またある時は緑川夫人。しかしてその実体は…! 女泥棒「黒蜥蜴」!! この世の美しいものという美しいものを集めるのが念願。明智小五郎をも窮地に陥れる、稀代の強敵。 狙うは国宝「エジプトの星」。レトロな挿し絵もたまらない!!「女アルセーヌ・リュパン」。2020/10/14
藤月はな(灯れ松明の火)
73
第7回「幻影嬢」の課題図書。美しくも残酷な女賊と怜悧な探偵との頭脳・心理戦はやがて互いへの甘美な思慕へと変わっていき・・・。危機的状況からのどんでん返しという娯楽性だけでなく、他の乱歩作品の要素も盛り込まれているのが乙。後、再読すると黒蜥蜴の一人称が「僕」なのが先進的。一方で序盤は謎めいていた彼女が明智小五郎氏を亡き者にした後に番にした早苗さんと青年が良い関係になっているのに苛立つ無茶苦茶ぶりなどの人間味を獲得する分、ラストが物悲しいのだ。掲載当時の読者の期待を煽る文章が挿入されているのも楽しい。2023/08/26
セウテス
63
〔再読〕左腕に黒い蜥蜴の入れ墨を持つ女賊と明智の二転三転する展開の中、駆け引きの妙が存分に楽しめます。そして三島由紀夫氏が映画や舞台で演出した、名探偵明智と女賊黒蜥蜴の宿命的な思いが絡み合う珍しい作品です。この創元推理文庫のシリーズは、雑誌連載当時の挿し絵が、そのまま掲載されています。編集部の次回広告も、もれなく載っていて当時の雰囲気を感じる大変味わい深いものでした。乱歩作品では数少ない「終劇」の文字が浮かぶ様な、ロマンチックなラスト。正に文章の中の出来事が、身近に起こっているかの様な、筆力を感じました。2015/07/29