内容説明
ドイツと講和条約を締結して和平を得たイギリス。政府が強大な権限を得たことによって、国民生活は徐々に圧迫されつつあった。そんな折、ロンドン郊外の女優宅で爆発事件が発生する。この事件は、ひそかに進行する一大計画の一端であった。次第に事件に巻き込まれていく女優ヴァイオラと刑事カーマイケル。ふたりの切ない行路の行方は―。壮大なる歴史改変小説、堂々の第二幕。
著者等紹介
茂木健[モギタケシ]
1959年生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
39
第一作が起こってしまった事件から真相を辿るミステリであれば、こちらはある時間に向かって複数のストーリーが進行するサスペンス。今回はヒトラーその人も登場するが、わかりやすい恐怖の権化の(但し本作ではさほどのインパクトは与えず)彼よりも、表面上は極めて上品にスマートでありながらも深く静かにファシズム国家への道を歩み出すイギリスが恐ろしかった。わかりやすく反対しやすい変化よりも、知らないうちに、気付いた時には変わってしまったと感じる変化の方が、本当は恐ろしいのだ。これは、フィクションに限らない。 2015/02/23
kasim
34
英国に「強力なリーダー」政権が誕生して二か月。国賓ヒトラーの暗殺計画を巡り、手に汗握る展開。主人公の刑事カーマイケルが最後にハッと己を省みる場面があるのだが、気づくのが遅い、遅すぎるよ! 個人の意識が変わらず、一度体制ができれば独裁者のスペアはいくらでもいるという説明だけど。独裁者は右とか左とか何かの理念の狂信者ではなく、ただ権力を握り他者を支配することを目的とする人種のようだ。アーレント的な凡庸な悪の話にもなり得るのにそこは追及されてないように思えるのはもったいない気がする。2021/04/29
Small World
24
一応SFカテゴリーで読んでいるんですが、シリーズ2作目になると、その世界に入り込んでしまって、改変された歴史世界にも違和感なく、ミステリーとして読んでしまいました。派手な部分は皆無なのですが、面白いんですよね~、ファシズムが蔓延していく中で、社会の変化の後に人々の心の有り様も変わっていくとこは、やっぱり怖いです。なんか主人公が苦しい立場なんですが、次作ではもっと苦しくなりそうですね。2020/05/20
もち
17
「わたしに礼をいわれると、半ペニーほど高くつくかもね」◆大役を射止めたヴァイオラに、縁遠い妹からの接触が。無血クーデター、大女優の爆殺事件。繋がるニュース。持ち掛けられた計画とは――。愛と大義に揺れる美しいハムレットを、警部補は捉え切れるか。■三部作の第二幕。平行世界でしか描き得ない犯罪を、緊張感たっぷりに描いたSFクライムサスペンス。辿り着く結論は遣る瀬無いものだが、初めから判っていたことでもあった。それでも460pの間、信じ込ませた筆力に唸る。2017/10/24
万博
14
今回はヴァイオラという舞台女優が事件に巻き込まれる。元々テロリストで無いとはいえ、このグループのやり方はお粗末すぎでは。サスペンス調で、よりエンターテインメントな印象。歴史改変にふさわしい強烈な個性をもつ6人姉妹。姉妹だからこその「繋がり」には共感。ジャックがこんなキャラとは。演劇界の描写も興味深い。IRAのことも勉強しなきゃ。終盤のカーマイケルの行動には憤慨だったけれど、この決意が次巻どうなっていくのか。ヴァイオラの悲壮なラストを読みながら、時勢に流されるだけの一市民になったような気持ちにさせられた。2012/06/14