内容説明
仁術の士モーリス・ルヴェルは稀代の短篇作家である。面桶に慈悲を待つ輩、淪落の尤物や永劫の闇に沈みし者澆季に落涙するを、或いは苛烈な許りに容赦なく、時に一抹の温情を刷き、簡勁の筆で描破する。白日の魔を思わせる硬質の抒情は、鬼才の名にそぐわしい極上の〓〓である。加うるに田中早苗の訳筆頗る流綺。禍棗災梨を憂える君よ、此の一書を以て萬斛の哀〓を掬したまえ。
著者等紹介
ルヴェル,モーリス[ルヴェル,モーリス] [Level,Maurice]
1875年フランス生まれ。パリの病院に医師として勤めながら短篇を執筆し、“ル・ジュルナル”誌などに発表。英米仏の読書人を魅了し、「フランスのポオ」と賞賛され、ヴィリエ・ド・リラダンの「コント・クリュエル(残酷物語)」に重ねて評価された。日本では戦前に“新青年”等に翻訳紹介され、江戸川乱歩、小酒井不木、夢野久作などが絶賛し、時の探偵文壇を熱狂させた。1926年没
田中早苗[タナカサナエ]
1884年秋田県生まれ。早稲田大学英文科卒業。英米仏文学翻訳家。1945年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
75
短編集で一つ一つの話は長くはないが、どの話にも地獄がみっしりと詰まっているという印象。どの話も救いはなく酸鼻を極めているのだが、何故かその中に輝きに似た奇妙な美しさが感じられる。以前読んだ時には「青蠅」「暗中の接吻」「闇と寂蒔」のようなグランギニョルめいた残酷物語に感じ入る物が多かったが、今回は「フェリシテ」「孤独」「二人の母」のような人間苦というか人生の悲惨さについて描かれたものに心惹かれるものがあった。あと巻末に文章寄せているのが小酒井不木に夢野久作、甲賀三郎そして乱歩と非常に豪華なのも特色であった。2020/08/24
空猫
44
大正14年の訳そのままで古臭く感じるが、却って作品の味が増しているように思う。ポーが随分引き合いに出されているが、シンプルな文と鋭い切れ味はまた別物かと。訳者の田中早苗氏の賛辞の他、小酒井不木、甲賀三郎、江戸川乱歩、夢野久作、牧眞司氏らの解説付きが豪華だ。web上で読めるものの紙媒体で読みたくて、しかも多数のアンソロジーでの既読も多かったけれど、後悔はない。えぇ無いですとも。2021/06/21
藤月はな(灯れ松明の火)
38
ごく短い話にも関わらず、一瞬、幸福を感じてしまったことで更に絶望感を味わってしまうことや人間の感情が些細なきっかけによって急に豹変することなどの描写が素晴らしく、舌を巻きました。背筋がうすら寒くなるのに次の話も読みたくなる中毒性があります。ユーモラスでいて冷徹な視点の訳も読みやすかったです。ごく普通の人の忠告があわや、悲劇を招いてしまう展開も実際によくあることなので意味深です。2011/06/14
紫
34
「幻想」「孤独」「フェリシテ」「暗中の接吻」が良かった。全体的に女性が悪者、父子関係の感動が特徴に感じる。作者は子思いのよき父だったのかも。2013/03/08
かわうそ
33
作品そのものに加えて翻訳もかなり古いものだけど、文体は美しく今読んでも雰囲気抜群で内容とうまく調和している。ほどよく大衆的でオチもしっかりつくので残酷で救いがなくとも後に引く印象はなくグイグイ読めて楽しかった。2016/12/22