内容説明
『太陽がいっぱい』や『見知らぬ乗客』で有名なパトリシア・ハイスミスが、1964年度の英国推理作家協会賞を受賞した著者の代表作である。アメリカから追っ手を逃れて冬のギリシアにやってきた詐欺師と、暗い影を背負う青年とがアテネの街角で出会い、悲劇が始まる。尋問にきた地元の刑事を殺し、クレタ島に逃れた三人を待ち受けていたのは…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ブラックジャケット
7
1962年のギリシャが舞台となっている旅情あふれるミステリ小説だ。中年のアメリカ人チェスターは若い妻コレットを連れて、アクロポリスの観光を楽しんでいる。そこで流ちょうなギリシャ語を操るアメリカ人青年ライダルと知り合う。このチェスターはアメリカで投資詐欺を働き、ギリシャへ逃避行となった。ホテルで追ってきた私立探偵を誤って殺してしまい、死体を運ぶときにライダルに見られてしまった。ライダルは不仲の父親の面影をチェスターに見、美しいコレットに心惹かれていた。不安定な三角関係と追われる 恐怖がブレンドされた良作。 2019/01/25
ぶうたん
6
ハイスミスらしい人間心理に踏み込んだ作品で、それほどミステリ的な要素は多くないように思う。主人公の心理が謎なので、そういう意味ではミステリではあるのだが。最初はまどろこしくて半分くらいまではなかなか読み進めなかったが、半分過ぎたくらいから面白くなってきて一気に読み終わることができた。読み応えのある作品だと思う。それはともかく、解説によると原題はヤヌスを表しているらしく、主人公の憎しみと愛惜に溢れたアンビバレンツな感情を象徴するような素晴らしい原題なのに、なんでこんなタイトルにしちゃったかな。2022/01/03
リプリー
4
ハイスミスらしい“どちらに転ぶか分からないヒリヒリ感”が堪能できる作品。 主人公二人にの絶妙な関係性は正にハイスミスにしか描けないといっても過言ではないだろう。 不条理な展開や人物のやや理屈に合わない行動も実にらしい。 かといって感情移入を妨げるほど突飛ではない。 おすすめ!2016/11/11
たみき/FLUFFY
3
映画「ギリシャに消えた嘘」の原作。「太陽がいっぱい」の原作者パトリシア・ハイスミスの作品。この時代設定じゃないと成り立たない要素がたくさんある作品(トリックとか今じゃ無理)。ライダルの持つ背景が、恋愛や家族に対して色々報われない過去であり、それをいつまでも反芻していて、その復讐の対象となったチェスター。一見そうとは読ませないし、ライダルも表面上は巻き込まれた形になっているけど、それにしたってなぜか自分から飛び込んでいるわけで。後半は男同士の愛憎絡みまくる展開だったな。視線とか視線とか・・・。2015/04/01
h
3
「人間の持つ能力の中で、記憶ほど薄気味悪いものはない。記憶を甦らすのは楽しい一面もあるものの苦々しくもあり、ときとしては人の心を惑わす」2015/03/15