内容説明
緑豊かなアラグリンの谷を支配する、氏族の族長エベルが殺された。現場には血まみれの刃物を握りしめた若者。犯人は彼に間違いないはずだった。だが、都から派遣されてきた裁判官フィデルマは、納得出来ないものを感じていた。七世紀のアイルランドを舞台に、マンスター王の妹で、裁判官・弁護士でもある美貌の修道女フィデルマが、事件の糸を解きほぐす。ケルト・ミステリ第一弾。
著者等紹介
甲斐萬里江[カイマリエ]
早稲田大学大学院博士課程修了。英米演劇、アイルランド文学専攻。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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榊原 香織
70
ケルト・ミステリー 修道女フィデルマシリーズ長編第3作上下巻の上(翻訳は第1作になる) 7cアイルランドの法律がしっかりしていることに驚かされる2023/01/15
南北
60
シリーズ長編5作目。今回はフィデルマが裁判官として判決を下すところやエイダルフに対し普通にツンデレの一面を見せていたのがよかった。事件は氏族(クラン)の族長が殺害され、近くに血まみれのナイフを持った人物がいたことでこの人物を犯人扱いにする人が多いが、視力・聴力・発声に障碍を持つこの人物からどうやって証言を引き出すかが鍵になりそうだ。これまで原作の出版順に読んできたが、一番面白い。アイルランドを舞台にしている点やエイダルフが最初から登場しているところなどを考えると本作から翻訳が行われたのも納得できる。2021/03/30
坂城 弥生
51
七世紀アイルランドが舞台だと書いてあったので、男女差別とかが強いのかと思ったら、男女差別よりも人種や血統、あるいは障害に対する差別や偏見のほうが強かった印象。2021/05/14
Nat
38
フィデルマシリーズは高慢な登場人物が多く、イラッとすることもしばしば。今回もクラナット、クローンとマードナット、ゴルマーン神父など。でも、エベルの娘で族長の後継の後継予定者のクローンは、後半フィデルマの賢明な助言で少し認識を改めたような印象があったので、下巻でどんな展開になるか楽しみ。2022/02/03
星落秋風五丈原
34
シリーズ第5作だが、日本は最初に翻訳された。日本における初登場は、裁判シーンである。もちろん、トレードマークの「被り物の下からこぼれるようにのぞいている赤みを帯びたひと房の髪の毛」も健在。ただこの時は、あまりにもさりげなく描かれているので、後のちこれが「誰が何といっても言うことを聞かないフィデルマの比喩」とはわからない。マルドウナッハ丘陵の北、山脈に囲まれた谷間の緑深いアラグリンで、族長エベルが殺害される。フィデルマが面会した容疑者の若者・モーエンは、目が見えず、耳も聞こえず、口も聞けない青年だった。2006/12/14