内容説明
殺された老人の金庫に入っていた、傭兵と思われる人物の日記。捜査を進めるヴァランダーのもとに、父親急死の報が。せっかく心を通わせることができた矢先だというのに…。だが哀しみにひたっているひまはなかった。行方不明の花屋の主人が遺体で発見されたのだ。監禁されたのち殺されたらしい。新たな連続殺人の幕開けなのか。現代社会の問題をあぶり出す、北欧ミステリの真髄。
著者等紹介
柳沢由実子[ヤナギサワユミコ]
1943年岩手県生まれ。上智大学文学部英文学科卒業、ストックホルム大学スウェーデン語科修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
442
上巻では、あまりにも事件の解決が遠そうなのに苛立ちを感じてしまい、低い評価を与えそうになったが、下巻に入って加速度的に面白さが増し評価を改めることに。ややもすると夾雑物にも見えかねない要素は、作品に厚みと独特のリアリティとを保証しているのであり、それこそがヘニング・マンケルの真骨頂なのである。そして、エピローグの持つしみじみとした抒情。まさに北欧ミステリーを読む楽しみはここに極まれりといったところだ。犯人の孤独と哀しみ、それはヴァランダーにもあるいは重なるものであるのかもしれない。それは一瞬の交点を結ぶ。2022/05/31
ケイ
138
男社会の中で目覚しく活躍し出している女性達。1990年代半ばでは、スウェーデンと言えども男達に戸惑いは大きい。彼らが女性のもつ力をまずは拒否し、そして次第に受け入れていく様子を、マンケルはヴァランダー目を通して描いている。殺人の動機としては納得はいかなかった。事件と並行して身内で起こる変化が気になる。自警団の問題などは、国として開いていこうとする時に反作用として起こる問題のひとつだろうが、スウェーデンにはそれに対する耐性が他より強く感じた。2018/07/18
紅はこべ
136
被害者の一人が傭兵の日記や頭蓋骨を持っていた件はどうなったんだろう。別の被害者が本業の他に探偵業をしていた理由は?色々謎が残った。ヴァランダーのチームはまとまっていて、気持ちがいい。お国柄のせいか、警察に差別意識がないしね。そんな国でも自警団が立ち上がるという、20世紀の終わり頃だが、現在を予感させる、不穏な気配を漂わせている。ヴァランダーに協力している刑事が語った、先輩刑事から聞いたという「スウェーデンの福祉社会が犯罪のカモフラージュになっている」という言葉が衝撃だった。2017/02/24
セウテス
92
【ヴァランダー警部】シリーズ第6弾、下巻。今度は袋に入れられ、ゆっくりと溺れ死させられた遺体が見つかる。この男と花屋が、その妻に暴力を働いていた事もわかり、犯人が暴力を受けた女性の復讐をしているのではと考えられる。シリーズで言えば、今回はDVと傭兵問題があげられる。傭兵として他国にまで人を殺しに行く、自国民がその様になってしまったのか、という嘆きも感じる。犯人と自分を重ねて考えるヴァランダーの持つ、心の悲哀が痛い程伝わる。制裁や報復は、心の悲痛な叫びが呼び起こすものなのか、問題の根深さに驚く。 2022/06/09
巨峰
91
このシリーズは、本当に巻を重ねるごとに面白くなっていく。本作での、警察の追い込まれっぷりは半端ないです。閉塞感が凄い。それは、その当時のスウェーデン社会の閉塞された状況をダイレクトに反映しているんだと思う。2018/12/23