出版社内容情報
数学の教授だったアレックは六十、年の離れた妻リタと村はずれで平穏に暮らしていたが、バリーという若造の出現で状況は一変する。ある晩リタとバリーは突如姿を消し、海へ真っ逆さまの断崖まで足跡がついていた。二日後遺体は発見されたが、腑に落ちない点が多すぎる。二人の死は心中か殺人か、村に住む老医師が綴った手記から浮かび上がる真相とは? 張りめぐらした伏線を見事回収、目配りの利いたヘンリ・メリヴェール卿活躍譚。
内容説明
戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メリヴェール卿とも行を共にするが…。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品。
著者等紹介
ディクスン,カーター[ディクスン,カーター] [Dickson,Carter]
アメリカ、ペンシルヴェニア州生まれ(1906‐77)。本名ジョン・ディクスン・カー。1930年に予審判事アンリ・バンコランを探偵役とした『夜歩く』を発表
高沢治[タカサワオサム]
1957年茨城県生まれ。東京大学、同大学院人文研究科に学ぶ。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
375
★★★☆☆ H・M卿シリーズ第14作目。 戦時下のイギリスを舞台に、車椅子生活のH・M卿が暴れ回る。しかし、本作の主役は語り手であるクロックスリー医師である。 当然叙述トリックを疑うのだが地味過ぎて微妙。むしろ主題は足跡のない殺人でこちらは中々に良い出来だと思う。 解説おもしろかった。個人的には『四つの凶器』をベストに入れてくれていたのが印象的。これ好きなんだけど、世間的に高評価されたのを初めてみた。H・M卿のドタバタぶりは好きでも嫌いでもない。2025/01/26
W-G
358
カーの作品の中でもかなり好き。犯人の呈示の仕方がユニークで、上手く盛り上げてくれている。犯人指摘のロジックも、カーにしては分かりやすくしっかりしており、H・M卿の存在感も抜群。訳文も今までで読みやすく頁数も少なく一気読み。足跡のトリック自体は…だが、全体的な纏まり感がある。怪奇趣味を期待していると物足りないが、もともとカーの作品で怖さを感じない方もかなりの数いると思われるので、そういう方々には好かれる作品だろう。背表紙のあらすじを読むと『アクロイド殺し』を連想するが、ソコから外してくるのが創元の手柄。2017/03/15
紅はこべ
133
ハヤカワミステリ文庫の旧訳も読んだけど、甲乙はなし。H・Mが肖像画のモデルになる件への老医師の感想は旧訳の方が良かったかな。第二次世界大戦当時に男女関係の問題で殺人が起こるって、『災厄の町』もそうだけど、英米余裕がある。まして英国は本土が攻撃受けているのに。高齢男性の一人称が「わし」で違和感がないのは、H・Mとフェル博士だな。リタの体重が意外と重かった。豊満なタイプなのね。2019/03/03
yumiko
63
学生時代にあらかた読んだカー。いい感じに忘れている作品から再読開始。崖に向かう足跡を残し、人妻と俳優の卵が姿を消す。不義の末の心中と思えたが、打ち上げられた遺体には銃で撃たれた跡が残っていた…。医師の手記といえば、ミステリファンが思い起こすのはあの超有名作品。そこを逆手に取られた感がかえって気持ちいい(実際どっちが先なのかしら?)細かい伏線が見事に繋がって、解決後はきちんと納得。推理小説としては当たり前のことだけれど、それがない作品が最近多過ぎて…やっぱりカーは凄いし面白い!H・M卿も今は嫌いじゃないな。2016/03/20
星落秋風五丈原
56
現場は屋外とはいえ準密室殺人。作品の刊行が1943年で、まさに灯火管制下で書かれた作品。戦争の行方が定まらず、作品全体に重苦しい雰囲気が漂う。その雰囲気を吹き飛ばして登場するのが、お馴染みメリヴェール郷。いや、この人変わりませんな。足を怪我して車椅子に乗っているから、安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵をやるかと思えば、そのまま飲み屋に突っ込んだり、止まらなくなって崖から落ちそうになったり(危ないって)周囲がハラハラ。リックに対して抱く固定観念を巧く利用しており、不可解な手掛かりや伏線を回収していく手際はさすが。2016/04/19