出版社内容情報
「我々は知りすぎているんです。お互いのこと、自分のことを知りすぎている。だから、僕は今、自分の知らない一つのことに本当に興味をおぼえるんです――あの気の毒な男がなぜ死んだか、ですよ」新進気鋭の記者ハロルド・マーチが、取材に向かう中で出会ったホーン・フィッシャーという男とともに目撃した奇妙な自動車事故の意外な真相とは。諧謔と奇想に満ちた連作ミステリ、創元推理文庫初収録作。
内容説明
新進気鋭の記者ハロルド・マーチが財務大臣との面会に行く途中で出会った人物、ホーン・フィッシャー。上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気に溢れながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱えるフィッシャーは、高度な政治的見地を要する様々な事件を解決に導いてゆくが…。巨匠が贈る異色の連作が、新訳にて創元推理文庫に初収録。
著者等紹介
チェスタトン,G.K.[チェスタトン,G.K.] [Chesterton,Gilbert Keith]
1874年イギリス生まれ。作家、評論家。逆説と諧謔の大家として知られ、“ブラウン神父”シリーズに代表される短編推理小説は、コナン・ドイルの作品と並んで後世の作家たちに計り知れない影響を与えた。1936年没
南條竹則[ナンジョウタケノリ]
1958年東京に生まれる。東京大学大学院英文科博士課程中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Kircheis
200
★★★☆☆ チェスタトンと言えばブラウン神父が有名だが、実はそれ以外にもかなり面白い短編が沢山あり、本作もその一つ。 得意の逆説的ロジックはやや控えめだが、その分割と正統派のミステリになっていると感じた。 特に好きなのは読後の余韻が大きい『釣師のこだわり』。 ラストを飾る『彫像の復讐』も、話の構成がクリスティやクイーンの某作品に通ずるものがあって味わい深かった。2020/11/04
Tetchy
138
“知りすぎた男”ホーン・フィッシャー。彼は知りすぎているがゆえに自分の知らないことに興味を覚える。本書はそれまでのチェスタトン作品と比べるとミステリとしては簡単な部類に入るだろう。しかし真相に隠された犯人の真意やフィッシャーの意図は深みに溢れている。彼は知りすぎたがゆえに大局が見えたが、それを伝えるには時間がなかった。知りすぎたがゆえに自ら行動せざるを得なかった。そして周囲は彼の理解力に追いつかなかったゆえに彼の真意が解らなかった。ホーン・フィッシャー。彼はチェスタトン作品の中で最も哀しい探偵であった。2021/01/14
nemuro
53
“しりとり読書”の128冊目。有名な作家とは知りつつ今まで無縁なG・K・チェスタトン。せっかくの機会なので、エイっと選定。調べてみたら、2021年10月、所用で訪れた函館「くまざわ書店函館店」での購入。上流階級の一員で彼らの背景や秘密を知り尽くしているホーン・フィッシャーを探偵役とする連作短編集で、1920年~22年にかけて『ハーバーズ・マガジン』に連載の8編を収録。時代は、第一次世界大戦の終結直後、英国の隆盛に陰りが見え始めた頃。100年余り前の作品。再読してこそもっと面白さを実感できるのかもしれない。2025/02/11
yumiha
50
短編連作集なのに、次々と新たな登場人物が出てきて前のページに戻って確かめながらだから、手間がかかった。そして探偵役のホーン・フィッシャーが、見た目も冴えないし(げっそり痩せこけて額も禿げ上がっている)、ものうげでくたびれた様子だし、わざと大物を逃がすし、全く魅力を感じないタイプなので、なかなか進まないんですわ💦それが、「一家の馬鹿息子」の章で一変した‼そうか、そんなわけがあったのか…。首相、外務大臣、財務大臣などなどの政界の大物たちが外国の融資家達に牛耳られていて、その被害を押し付けられるのは、英国民。2021/10/06
cinos
44
ちょっと読みにくいですが、それでも逆説と推理の面白さは抜群です。「少年の心」の伏線とか、「一家の馬鹿息子」の意外性とか、最終話の決着の付け方とか、さすがチェスタートンです。2020/06/27