出版社内容情報
ユダヤ人の父を強制収容所に送られた著者による、アイロニーと叙情に彩られた、この上なく美しい自伝的連作短編集。犬と哀しい別れをする少年はあなた自身でもあるのです。
内容説明
第二次世界大戦中に少年時代を送った旧ユーゴスラビアの作家ダニロ・キシュ。ユダヤ人であった父親は強制収容所に送られ、帰らぬ人となった。この限りなく美しい自伝的連作短編集は、悲劇をアイロニーと叙情の力で優しく包み込む。犬とこの上なく悲しい別れをする少年アンディはあなた自身でもあるのです。
著者等紹介
キシュ,ダニロ[キシュ,ダニロ] [Kis,Danilo]
1935年、ユーゴスラビア、スボティツァ市に生まれる。ベオグラード大学比較文学科を卒業後、作家活動に。セルビア・クロアチア語及び文学の講師としてフランス各地で教鞭を取り、1979年にパリに移り住む。1989年、同地に死す。作品は二十以上の言語に翻訳され、国内はもとより、仏、伊、独、米などの数々の賞を受賞
山崎佳代子[ヤマサキカヨコ]
1956年生まれ。静岡に育つ。北海道大学ロシア文学科卒業後、サラエボ大学に留学、ユーゴスラビア文学史を学び、2003年にベオグラード大学文学部で博士号を取得。現在同大学文学部教授。ベオグラード在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
113
ユーゴスラビアの作家による短篇集。自伝的な物語で、著者の子どもの頃(先の大戦の頃)の日々を回想している。詩的な文章は大人なようで、でも子どもの感性そのままに描いたような不思議な魅力があった。無邪気な一方、子供らしい敏感さから周りの不穏を嗅ぎとり、得も言われぬ不安に囚われた日々の哀しき気持ちが文章から見え隠れする。読みながら無知で無垢な童心に戻され心が揺れた。父を無意識に案じ、ディンゴらに対する無力感に苛まれた彼。それでもこれはただ哀しいだけではなく、人の弱さ儚さを知りながら辿った彼の人生のバラードなのだ。2023/01/08
nobi
81
哀しみを湛えた淡々とした語りには同調できるはず、と思っていた。この短編集は様子が違う。牧歌的であるはずの映像に、過去が生々しい記憶とも空想ともつかない非連続的な映像となって重なる。例えば「セレナード、アンナのために」「野原、秋」。優しさを全うするために少年が取った凶暴さに身が竦む「猫」。寄り添おうとする読み手の気持ちを拒絶しているようにすら見える屈折した深層。その中、懐かしいモノクロ写真を見るような「ビロードのアルバムから」、駆けてくるディンゴを鞭で追い払ってと泣いて頼む少年の「手紙」は切々として哀しい。2017/05/27
アキ
70
ユーゴスラビアの作家ダニロ・キシュがセルビア語で書いた少年時代の記憶を、ベオグラード在住の詩人山崎佳代子が訳す。父親は不在である。収容所に送られてから消息はない。母親とは生きるために離れざるを得なかった。少年時代の記憶の中のマルメロの並木道はどこに消えてしまったのか。飼い犬も妹2匹も子猫も戦時中には悲惨な運命しか残されていないのだ。現代に生きる私たちからは想像もつかない悲哀。「僕はユーゴスラビアの作家だ」「なにごとも繰り返される。限りなく、類なく」キシュの言葉。1989年死去。ユーゴ内戦の前年である。2019/11/29
miyu
40
とても短い物語が幾重にも続き、どれもが哀しみに満ち溢れている。哀しみの連なりが一篇の詩のように私の心をとらえて放さない。あの日彼の目に連れ去られる父の後ろ姿は、どんなふうに見えたのか。置き去りにせざるを得なかったディンゴが鞭打たれても鳴きながら追いかけてくるのを、どれほど耐えられずに聴き続けていたのか。その後のアンドレアスが辿った道はどんなに苦しかったのだろう。私の中に次から次へと誰ともなしに問いかける気持ちがわく。大人になってもけして越えられない傷が、そこにはあり続ける。とても想像できない傷痕が。2014/10/24
踊る猫
34
ダニロ・キシュを日本語で読む……なんと甘美な体験だろう(もちろん山崎佳代子の訳業がなければ成り立たなかったことだ)。激動の時代を生きたこの作家の書いたものを、わざわざ政治性を切り離して読むことは端的に無意味かつ無礼な振る舞いというものだ。でも、それを踏まえてもなおキシュのこの繊細さは「大文字の言葉」「イデオロギー」が塗りつぶしてしまうものをこそすくい取っていると評価したい。子どもはその幼心に、大人たちやこの世界の愚かしさと崇高さを見抜く目をすでに持ち合わせている。そんな唯物論的な目線と詩心が幸福に融合する2024/01/02
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