内容説明
かつて万人恐怖の病であったハンセン氏病に冒され、癩院でその二十四年の短い生涯を終えた天才作家北条民雄の全集完全文庫化。いのちの極限から魂の内奥を赤裸々に吐露する随筆、感想、日記、書簡(師と仰ぐ川端康成との往復書簡・計九十通をはじめ、中村光夫宛など)および、友人らによる追悼記を収録。
目次
随筆(癩院記録;続癩院記録;発病 ほか)
感想(精神のへど;覚え書;一九三六年回顧 ほか)
日記(一九三四年(昭和九年)
一九三五年(昭和十年)
一九三六年(昭和十一年) ほか)
書簡(川端康成との往復書簡;中村光夫宛;五十嵐正宛 ほか)
追悼記(北条民雄の人と生活;臨終記;遺稿を整理して)
下巻編纂の辞(昭和十三年版)
覚書(昭和五十五年版)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
100名山
3
川端康成が「雪国」に取り組んでいる時、脅迫状のような手紙で接点を持った北条民雄。その往復書簡。 自分の死後発表されるかもしれないと予測されて書かれた日記。 川端康成も勿体ないと考えた小説の素材に成り得る多くの随筆。 そして貴重な無二の親友東條耿一や北条をモデルにした小説「青年」を発表した光岡良二など友人たちの追悼記などが納められている。 小説とは違い等身大の若者の苦悩がそこには書き連ねてあります。 2009/02/20
勝丸
2
ハンセン病(旧らい病)に罹患した作者による作品。「砂の器」「あん」等の映画でも触れられていたが、療養所内での生活がどんな様子かが具体的に書かれていた。 下巻には、作者と川端康成氏との往復書簡が収められていたが、どんなに生きる事への支えになった事だろう。2023/11/25
巻野仁朗
1
「俺は俺の苦痛を信ずる。如何なる論理も思想も信ずるに足りぬ。ただこの苦痛のみが人間を再建するのだ。」158頁。北條民雄の随筆、日記、書簡、友人達の追悼記が収録されている。23年という短い人生であった故、未完成作品も多いが、北條民雄の言葉はいつ読んでも心に響く。北條を指導、援助していた川端康成との書簡は、小説家志望の人にも読んで欲しいと強く思う。逆境をひたすら恨むか、逆境に絶望して流されるままになるか、逆境と向き合って何かを学んでいくか、という古びないテーマを投げかけているのが北條民雄だ。2016/10/27
モーリス
1
おもしろい
endormeuse
0
”凡てを肯定した虚無、これ以外には私は私を救う道がない。そして我々の生活に頼り得るものは唯一つ意志あるのみ、そして虚無たり得ないのが人間の宿命であるとすれば、私を救うものはもう意志だけだ。”下巻に収録されている随筆はその強度において際立っており、先駆的覚悟性に身を啓かされたもののみが持ちうる凄みのようなものがあるとすれば、まさにそれを体現しているといってよい。他方で日記や書簡を読む限りは、その人となりは「どこにでもいる作家ワナビの青年」にみえる。病は作家を殺したが、おそらく彼を作家にしたのもまた病だった。2019/10/31