出版社内容情報
心に傷をかかえた書物の魔道師キアルス、心に闇をもたぬ大地の魔道師レイサンダー、若きふたりの運命が太古の闇を巡り交錯する。『夜の写本師』の著者が放つ闇と魔法の物語。
内容説明
こんなにも禍々しく、これほど強烈な悪意を発散する怖ろしい太古の闇に、なぜ誰も気づかないのか…。繁栄と平和を謳歌するコンスル帝国の皇帝のもとに、ある日献上された幸運のお守り「暗樹」。だが、それは次第に帝国の中枢を蝕みはじめる。コンスル帝国お抱えの大地の魔道師でありながら、自らのうちに闇をもたぬ稀有な存在レイサンダー。大切な少女の悲惨な死を防げず、おのれの無力さと喪失感にうちのめされている、書物の魔道師キアルス。若きふたりの魔道師の、そして四百年の昔、すべてを賭して闇と戦ったひとりの青年の運命が、時を超えて交錯する。人々の心に潜み棲み、破滅に導く太古の闇を退けることはかなうのか?『夜の写本師』で読書界を瞠目させた著者の第二作。
著者等紹介
乾石智子[イヌイシトモコ]
山形県生まれ、山形大学卒業。1999年教育総研ファンタジー大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
あわいの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
文庫フリーク@灯れ松明の火
110
見かけは何の変哲も無い漆黒の円筒《暗樹》遥か古代の闇から生まれ、生物が生じた時にその血に忍び入り悠久の時を経て、すでに分かつこともできないが故に滅ぼすことのできない邪悪な意志の塊。人を破滅へと導く、動機の無い、純粋な悪意。《暗樹》のささやきは人を誘惑し、一旦は望外の恵みをもたらしながら、その後必ず破滅を呼び込む。この《暗樹》に立ち向かうギデスディン魔法の創始者キアルス(前作・夜の写本師に登場)と大地の魔道師レイサンダーの若者二人。そして四百年前《暗樹》と戦ったテイバドール。前作同様、濃密で400ページ→続2012/09/02
七色一味
105
読破。『夜の写本師』の物語世界を構築するパーツの一片──にしては、かなり重厚ですが^^ この世界は、とにかく読み進める速度が遅くなります。『ハリー・ポッター』シリーズのようにはスパスパ読み切れない。もちろんその分だけ世界に深みがあって魅力的なのもあるけれど、微妙に比喩を多く含んだ文体は、一つ一つその真意を考えさせられてしまいますね。2013/04/08
みっちゃん
91
解説の言葉を借りれば前作【夜の写本師】に「先立つ物語でもあれば後日談でもある」。シルヴァインの不幸な死から3ヶ月、自暴自棄になっているキアルスが登場したと思ったら突然、物語はそこからさらに400年前のタペストリーの中へ入り込んでゆきます。何という遠大な物語世界でしょうか!太古から人の心の闇に巣食って長らえてきた「暗樹」に唯一、対抗しうる「タゼンの歌謡集」結末には驚かせられました!次の【太陽の石】では、どんな驚きをもたらしてくれるのでしょうか?楽しみです。2013/11/09
ちはや@灯れ松明の火
80
闇は謳う。降る光を浴びようと両の手を掲げながら其の足は地に凝る闇を絶えず吸い上げる、人もまた我等の眷属なのだと。黒髪と碧眼を持つ若き魔道師ふたり、無力を歎いては流離い、我を見失いては彷徨い、やがて交わり互を識る。たおやかな指が綴りし絵が語り、口から口へ継がれし歌が導く。其れは古人の営みと息遣い、滅ぶことなき闇との永き闘いの軌跡。やがて分かれゆく彼らの道、別離ではなく再び相見え闇へと挑むため。ふたつの糸を織り成して綾なす紋様を紡ぐように。月は謡う。流れ落ちた血を、涙を、繰り返される歴史を、闇と共に在る光を。2012/09/26
藤月はな(灯れ松明の火)
75
心の闇を持っていないが故に暗樹から逃げたレイサンダーと前世を抱きつつも自暴自棄に生きるキアルス。国家統治の題材はローマやアテネなんだなと思います。暗樹を受け入れた後のガザウス帝の自身の闇に眼を閉じる専横ぶりにはネロ皇帝を、政治の建前しか見ない民衆には民主主義が台頭してからの衆愚政治を、法の裁きを受け入れる老兵にはソクラテスを連想してしまいます。そして暗樹は人が発展させた、力を発揮するであろう、技術や言葉の暗喩なのでしょう。ただし、それは使う人の思惑によって悪しき/善しきが変わるだけなのかもしれません。2014/04/16