内容説明
代議士夫人の影が盗まれた!?にわかには信じがたい事件の調査を義母より依頼され、しぶしぶ乗り出すことになった高広。芝居好きが高じて邸内に個人劇場まで建ててしまうほどの好事家の屋敷で、その事件は起きていた。ありえない事件、ワヤンと呼ばれる幻惑的な影絵芝居、そして怪盗ロータスの気配…。なぜ、どうやって影は消されたのか―(表題作)。心優しき雑誌記者と美貌の天才絵師。ふたりの青年の日常を描いた掌編二編を含め、明治の世に生きる人々の姿を人情味豊かに描いた五編収録の作品集。好評“帝都探偵絵図”シリーズ第三弾。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
69
待ちに待っていた帝都探偵絵図シリーズの新刊が読めて嬉しかったです。「永遠の休暇」や表題作の大切で大好きな人なのに別れなければならないことへの苦しみに切なくなりました。しかし、人から褒められたり、夢の欠片を観られる事も心が温かくなるきっかけになりうる。そのことがとても嬉しくて幸福で仕方ありません。個人的には浮世絵離れした印象を抱いた怪盗ロータスの人間味に嬉しくなるのと同時にある人物との別離に切なくなりました。2011/03/20
ちはや@灯れ松明の火
64
帝都の夜を灯す月は街へ人へと清かな光を降らせ、また其の足元へと昏い影を落とす。主従逆転の謙虚な探偵と高飛車な助手が向き合う謎もまた、絡み合う光と影の相克を宿している。硝子の池の畔で蠢く企み、下宿屋に集いし者が隠す素性、大洋が隔てた異母兄弟の愛憎、純粋な憧憬へとつけ込む詐術、盗まれた影と怪盗の暗躍、真実は玻璃の欠片に似て触れた指へと痛みを残す。夢も憧れも届かぬ高みにあり、水面に映る幻も儚く崩れてしまう、けれど心惹かれる輝きを追い求めずにはいられない。人は皆其々に己の裡を白く照らす月を見上げて生きていく。 2011/08/02
nyanco
64
「びいどろ…」は礼でも高広でもなく芸妓・花竜により綴られる。「びいどろ」の様子が儚げで耽美で実に良い。芸妓・花竜が主役となっての謎解きというパターンも面白かった。ロータスとの対決が見られる表題作は最もシリーズらしくファンには大満足の作品。「妙なる…」と「恐怖の…」はとても短い作品ですが、特に「恐怖の…」は礼の住む下宿屋・静修館の大家・桃介の様子が語られ、ファンサービスたっぷりの楽しい作品でした。 まだまだ礼・高広コンビの活躍とロータスの対決が楽しめる続編がありそうで楽しみにさせていただきます。続→ 2011/03/12
えりっち
58
シリーズ3作目。和製ホームズ&ワトソンですが、ホームズ役の高広はいつも周りの人に振り回されっぱなしです(笑)2016/01/08
ケロリーヌ@ベルばら同盟
45
下村冨美さんの麗しい装画と、(自…じゃない他称)和製ホームズの推理が光るシリーズ第三弾。表題作を含む五つの中短篇は何れも明治の御代の風俗、社会情勢を巧みに背景に取り込み、読み応えたっぷり。間奏曲風な二篇は、主人公である二人、謙虚な(他称)ホームズ高広と、女王様な(自称)ワトソン礼の一味違う姿を垣間見れてほっこり。表題作は、私もかつて携わった業界の明治期における事情が事件の一つのファクターになっており、興味深かった。ひねりある相棒モノと前作のレビューで書いたけれど、今回、らぶらぶ度マシマシで、気恥ずかしい。2019/01/08