出版社内容情報
【アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞】
それでも、人は生きていく。
未知のパンデミックが猛威を振るう近未来
消えない喪失を抱えながら懸命に生きる人々を描く
切なくも美しい新鋭の第一長編
未知のパンデミックに襲われ、世界は一変した。余命わずかな子供たちを安楽死させる遊園地で働くコメディアンの青年、亡くなった人との短い別れを演出するホテルの従業員、地球を離れて新天地をめざす宇宙移民船……滅びの危機を経て緩やかに回復してゆく世界で、消えない喪失を抱えながら懸命に生きる人々の姿をオムニバス形式で描く、新鋭による切なくも美しい第一長編。
内容説明
アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞作。未知のパンデミックに襲われ、人々の絆や社会が崩壊しかけた近未来。余命わずかな子供たちを安楽死させる遊園地で働くコメディアンの青年、亡くなった人との短い別れを提供するホテルの従業員、地球を離れて新天地をめざす宇宙移民船…消えない喪失を抱えながらも懸命に生きる人々の姿を描く、切なくも美しい新鋭の第一長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
136
パンデミックを原因とする近未来終末SFは珍しくないが、従来の作家なら主人公視点から破滅までの情景を一貫して描くところを、あえて未来なき世界で懸命に生きる人びとを点描する連作短編集の形をとった。安楽死のための遊園地や巨大化した葬儀産業、地球を脱出する宇宙移民船にVR都市など、大量死が身近すぎる時代だから生まれた仕事で働いたり参加する者に希望や喜びはない。この手の作品にありがちな狂気も怒りも戦争も政治もなく、ただ生きる姿を追う。それは理性的に見えるが、尊厳も明日もない絶望の具現化だとすればあまりに救いがない。2024/05/10
しんたろー
118
得意ではない翻訳ものだが、読友さん絶賛なので挑戦した…世界的パンデミックで人類滅亡の危機になった近未来が舞台の連作短編SFで、ある話の主役が他の話で脇役で登場したり、関わったりする構成。なので、行きつ戻りつしながら読んで時間がかかったが、その効果による面白さも味わえた。海外もの独特の文学的言い回しは好みではなかったが、心情を丁寧に書き込んであるのは好印象。重い話が多くて楽しい雰囲気ではないが、強く心に残る作品もあり『笑いの街』『豚息子』は特に沁みた。著者は日系アメリカ人らしいが、的確に日本を捉えていて👍2024/07/04
☆よいこ
80
日系アメリカ人が描く終末SF。連作短編風、章ごとに視点を変えてモザイク状に話が繋がる▽温暖化の影響で北極氷河が融解し原始人の少女の遺体が発見される[笑いの街]北極病が蔓延し罹患した子どもの安楽死のためのテーマパークができる[記憶の庭を通って]死の直前世界で赤ん坊を救う[豚息子]移植用豚が喋りだす[エレジーホテル][吠えろ、とってこい、愛してると言え]ロボ犬[腐敗の歌]死体牧場[事象の地平線のある暮らし]特異点[百年のギャラリー、千年の叫び]2037年ヤマト[可能性スコープ]世界創造者▽2024.3刊。眠い2024/11/03
ずっきん
73
素晴らしい。シベリア凍土融解により発見された三万年前の少女の遺体から未知のウィルスが放たれる。連作という手法でパンデミックの始まりからを緩やかに紡いでいく。幾つもの別離のシーンに溜息こそ漏らせど涙しないのは、あまりにも美しく奥行きのある描写のせい。なにより『悲哀』というカーテンの向こう側にあるであろう風景に、否が応でも想像力を掻き立てさせられる。感嘆の筆致である。読者は登場人物たちと共に勇気を奮い起こしボタンを押し、遺品を胸に抱きしめ海に漂い、そして「さあ、はじめようか」と笑顔で言う。全人類に勧めたい。2024/06/12
眠る山猫屋
68
挽歌、レクイエム、弔辞。“お別れの言葉”がしっくりくるか。思っていたもの(ブラッドベリ風な)とは違ったが、寂寥感あふれる善い連作SFだった。20頁程のエピソードが積み重なる構成。物語は現代シベリアから始まるパンデミックを背景に、発掘現場で事故死した娘の姿を追う老父を描く。北極病と名付けられた残酷な奇病は子供や弱者を淘汰し、世界は変転していく。死にゆく子供たちを送る遊園地で働くコメディアン、巨大産業化した葬儀社ホテルのコンシェルジュ。多くの登場人物たちは次のエピソードでは退場していたりするが(続)2024/05/05