内容説明
トレドにある酒場「ロコス亭」に集まる奇妙な人々は、物語の内と外を、またそれぞれの物語の間を自在に行き来し、読者を虚構と現実のはざまに誘う。ナボコフ、カルヴィーノ、そして多くのラテン・アメリカの作家たちの原型ともいうべき、知的で独創的で、とてつもなく面白い小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
25
こういうの大好き!元祖、メタ法螺話、ここに見参!しかも前の物語の登場人物が次の物語に密接に絡み合うリンク物としての面白さも詰まっています。物語の登場人物が勝手に現実に侵食し、自分たちの人生を謳歌する一方で作者が注釈でフォローや解説に回るという構造に笑いが止まりません。実は二卵双生児的構成である「アイデンティティ」と「指紋」「財布」のオー・ヘンリー的あるある感も楽しい。でも一番、好きなのは「犬の物語」。敬遠な神父がイノセンシオという名や情欲を唆るシスターに犬、春などに課せられた意味という遊び心がたまらん><2016/02/20
りつこ
23
面白かった。同じ役者が何役もこなす舞台を見ているように、登場人物があちこちに顔をだしかかわり合い、しかし微妙に年齢や関係性が入れ替わり、あれ?これはさっきの?最初に出てきた悪党ってこいつか?前作では立派な人物みたいに描かれてたけどこかにははっきり悪党ってある?と、読んでいるとぐるぐる目が回るみたい。改題された「ロコス亭」のほうは新訳なのかしら。古さを感じさせない企みに満ちた小説だった。2012/09/08
さっちゃん
17
フェリペ・アルファウを知らなかったが表紙絵と題名に惹かれて読んみたところ大当りだった。ナボコフ、カルヴィーノの原型と紹介されていたが作者のことはほとんど知られていない。プロローグは軽妙だが読み進めるうちにだんだんとこの作家の真価が現れてくるようだ。一番気に入ったのは最後の「犬の人生」。もう一度ゆっくり読みたいので文庫で購入予定。2016/02/10
おかだん
5
プロローグから語られる物語のありよう。そこからすでに超メタでクラクラさせられる。時間や場所を飛ぶように渡り歩きながら語られる奇人達の人生。傍観者のはずが登場人物にもなる作者と博士。サラッと現れて同一人物なのかも定かではないルナリート。ラテンアメリカ文学にも似た超越感だが、この作者、本当にプロフィールにある人物なのだろうか?誰かの覆面作品なのでは?時代を感じなさすぎる。100年早い天才と片付けられない疑惑がわいた。2019/06/10
鉄髭
5
スターシステムといい、作者の言うことを聞かずに勝手に動く(アドリブをきかす)キャラといい、欄外の注釈(作者のツッコミ)といい、その試みだけであれば、演劇や漫画の中で現在日常的に見られ、特に目新しいわけではないのだけれども、そのギミックを活かしたキャラ造形が見事。演出よりも役者の演技で魅せる舞台、あるいは演出によって魅力が引き出された役者を見に行く舞台といった印象。2012/03/08